忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

月曜日

沖土がアフター参加者をスペース中で募集しててえらい羨ましかった・・・いいなーお祭り。


続きです。(大島大先生トリビュート中)
折り畳みで小話です。

「手紙届きやした?」

電話が遠い。俺の意識が拒否反応を起こしているのだけが原因ではあるまい。きっとどこか遠い街からかけているのだ。

総悟は、全身改造の整形手術をしたのだという。徐々に声も変わっていくはずだと。
「夢だったんでさァ」
なにがだ。ニューハーフバーにお勤めすることがか?
送られてきた名刺は、俺の煩悶葛藤のままに丸めたり伸ばしたりといじりすぎたせいですっかり角が丸くなっている。

「お前女になりたかったのか」
「あくまでそれは目的じゃなくて手段でィ」
「お前のいうことはよくわからん」
「俺ね、子供のころからくりかえし見る夢がありやして」
「夢?」
「薔薇が咲いているすぐそばに手すり付きの階段。その先には木製のドア。顔を出す住人の男。そんな夢。その夢の中に出てくるひとにいつか巡りあいたいなって。」
「そんなん聞いたことねえぞ」
「こんなばかみたいな話、聞いたところであんたは笑うだけでしょ」

そんなことない、とはいえなかった。なにか、なにか言おうとして結局絞り出すようにほんとばかじゃねえのとだけ言った。

「ばかでもいいんです。地球上すべての場所を探すなんて夢のまた夢でしたが、ここにきて思いがけず時間ができやしたし、残りのぜんぶの人生かけて、探してみやす。」
「なんていうか、なんていうかお前って・・・・・・。いや、いい。頼むから本名でテレビとか雑誌とか公の場に出てくれるな。勤め先、有名な店なんだろ?極力露出は控えてもらいたい」

外聞が世間体がと説明する前に、「ご迷惑がかからないようにしやすね」と明るい調子で総悟がいう。
わかってんのか。わかってんのかほんとに!
俺は言いたいことがあるんだ。こんな厭味ったらしい小言じゃなくて、もっとちゃんとした言葉を。

「・・・・・・体には気をつけろよ」
「へい。これで俺の報告はおしまい。それではごきげんよう」
「ごきげんよう・・・・・・」

電話はあっけなく切れた。

近藤さんにはなんて報告したんだろうか。まさかありのままを?
もう一度確かめるために電話をかける気にはなれなかった。

 


★★


「ミツバちゃあん3番テーブルご指名よぅ」
「はーい」
勤めてもう何十年になるだろう。
今夜もミツバという名で店に出る。
なにもかも捨てるつもりで飛びこんだ世界。お守り代わりに決めた源氏名は、実のところかなり心の支えになっている。

雰囲気がいいと評判のこの店は、世話焼きで美容にうるさいママが切り盛りする、老舗のニューハーフバーだ。
お給料はそこそこだけど、休みがきっちり貰えるのがいい。

俺は相変わらず夢に出てきた運命の人を探している。

一回こっきりのお客さんにも恋人みたいに振舞って、「ところでこんな場所をご存知ですか」と切り出すのだ。
お客さんは面白がって、記憶を頼りにいくつかの場所を教えてくれる。その場限りのでたらめだったりしてもいい。実際にそこを訪ねて「違った」とわかるまでずっと楽しめるから。

何度も顔と体をいじった。俺の売りは全身整形美人なので、メンテナンスは必須なのだ。

もともと自分がどんな顔をしていたのか忘れてしまった。昔の写真なんてないし、昔の知り合いと繋がってもいない。確かめられない。
俺の意志とはおかまいなしに、時は流れて、体は衰え、感情は褪せていく。
あちこちぼろぼろなのに進むしかない。
科学技術と医療の進歩は凄まじくて、その恩恵を受けているくせにときどき怖くなる。途方に暮れる。


息が苦しい。
今日もいつもみたいに、夢の場所を求めて散策に出掛けたけれど、途中で突然目の前が暗くなった。

この間のメンテナンスで処方された薬が合わなかったのかもしれない。それか単純に老化?
『いくら修復しても、限界はありますよ』
馴染みの無表情な医師が珍しく眉を潜めてそういったのを思い出す。
潮時かもなァとぐらぐらする頭で考える。


(俺はなにがしたかったんだろうなァ)


ばかみたいだ。ばかなんだ。
でも賢い方法を知らない俺には身の丈にあった人生だった。

座りこんだ階段の、冷たい手すりに頭を預けて目を閉じた。
店のこと。店の皆、常連のお客さん。好きな酒、嫌いな歌。
昔のこと。
刀を振り回していた自分がまるで別人みたいに遠く感じる。
大好きな姉上。
近藤さん。近藤さんには結局ほんとうのこと言えないままだったなァ。迷惑がかかっていないといい。
隊の連中は皆幸せになったのかな・・・・・・
それと―――

かちゃりと鍵が回される音がして、ふと目を開けた。
見上げれば、ドアの陰から人の顔が覗く。
夢とおんなじだ。

そして薔薇が匂って。

「見つけた。」

そのひとはそういって、俺のほんとうの名前を呼んだ。


 

PR