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火曜日

ナオっちの新刊出ていたよ!スミオ!せつない!銀ちゃんお前は間違っちゃいないよ、しかしスミオ!(感想です)


当方土沖サイトです。折り畳みで小話です。 沖田さんのはじまりなんて知らないけれど、俺にとってのはじまりは夏だった。

夜中に塀によじのぼっているところを目撃してしまった俺に、人差指で「ひみつ」と伝えた沖田さんは、次の瞬間既にひらめく袖の残像だけになっていて、その素早さには、だめですよ外出届もなしに、とのらくら止める文句なんて追いつくはずもなく。

あくびをかみ殺していた次の日に、すれ違っても俺は、夜遊びですか、と尋ねることはしなかった。
だって「なにが?」てはぐらかされるに決まっている。

物騒なことに関わっているようなら、副長に報告しなければならない。
とはいえ、このひとだって年頃の箱入り娘というわけでもなし、尾行して見張られているだなんて、万が一それに気付いたら不愉快な思いをするだろう。あるいは激昂するかもしれない。俺にというより、副長に。

沖田さんは俺に直接手を下すことはない。優しさとは違う。だって実際、なにかあれば沖田さんから副長を経由して、容赦ない制裁が俺に下される。
あれは、結界のようなものかもしれない。あるいは法則。彼なりの線引き。

ほんのすこしだけ迷って俺は、沖田さんの身辺を検めるだけにとどめた。
転がっていた衣服から、血の染みや硝煙のにおいがないのを確認する。
安堵するのもそこそこに、さっさと部屋を後にした。
見つかったら変態の烙印を押されて屯所中に吹聴されるのは想像に難くない。精神的打撃を与えられることについては、そういえば珍しくないのだった。

三度目のときは、見兼ねてつい、手招きをしてしまった。
訝しげな顔でそろそろと寄ってきた沖田さんに、「北向きの勝手口は、鍵が壊れているんですよ」と耳打ちする。
ぱち、と瞬きする目がなにか言いたげだったから、俺が先回りした。優位にある者の、余裕で。

「ひみつです」

それまで、あんなに柔らかく笑えるひとだなんて、思っていなかった。





少しあとの話になる。
月見にかこつけた宴会の、座敷がすっかりはけた頃合いだったろうか。
寝転びもせず、縁側でぼんやりしている沖田さんに、声を掛けた。

そういえば、近頃は脱走するのを見ていない。それをふいに思い出したのだ。
追及しようとしたわけじゃない。ほんの気紛れだった。ひみつを共有しているもののよしみで、ちょっと楽しげな話のひとつでも聞ければいい、それくらいの。

「もうやめちゃったんですか」

それで通じた。
直接仕事で絡むことも少ない沖田さんが思い当たる、俺との接点なんて、それくらいしかなかったのだ。

「やめた」
「飽きたんですか」
「飽きられちった」

言葉の意味を反芻して、しくじったことに気付いた。
正直そっち方面の徘徊だとは思っていなかった。なんせ沖田さんは平静も平静、あの時もこれまでとなんら変わらず、色惚けしているようにはまったく見えなかったから。

なにも言えずに黙っている俺の代わりに、沖田さんが口を開く。

「居心地よかったのに、むこうはそうじゃなかったんだ」
「そうですか」
「以上」
「・・・話、聞くくらいならできますよ俺」
「だってお前告げ口すんじゃん」

誰に、だなんて今更だった。このひとはとっくに知っていた。

「でも、今はオフですし。プライベートを無選別に漏らしているわけじゃないですし」
「なんでお前必死なの」
「ひとりでつらいことを抱えていると、体に毒だからですよ。それに、居合わせたのも何かの縁っていうか、それに」
「・・・じゃあ、ひみつにして」

人差指で遮って、沖田さんはそっと呟く。
俺は呼吸もうまくできずにその一連の動作に目を奪われ、聞いたのだ。


好きなひとがいる。
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