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付き合おうって言えば先輩後輩問わずたいていオッケーもらえたし、バレンタインっていやあ机カバン靴箱にはラッピングされたチョコがざくざく入ってたから、いつかこういう日がくるってことは予想してた。
「土方さん付き合ってください」
相手から面とと向かって言われたのは初めてだったけれど、言われるだろうフレーズはだいたい予想していたとおりだった。
予想外だったのは、告白してきたのが15年来の幼馴染の総悟だってことだ。
こたつの向かい側の席に座って、総悟が蜜柑のタワーを作っている。
俺は参考書の問いを片っぱしから埋めていきつつ、目の前にある奇怪な障害物を視界の端で眺めている。
まったく例年となにも変わりない、平和な日常風景だ。
「だって今カノジョいないみてえだし。丁度いいから付き合いましょう」と続いた、総悟のどこからつっこんでいいかわからない発言に「おう」と返してしまったのは、勢いとしか言いようがない。
きょうになってあれは何かの間違いだったんじゃないかとすら思えてきた俺は、きのうの記憶を反芻しては、いややっぱりあれは告白だったよな、随分と迂闊な返事をしたんじゃないだろうか、と少しばかり苦い感情を噛みしめる。
長い付き合いだっていうのに、総悟の考えていることはいつだって謎だ。
一か月ずっとメロンパンしか食っていないとか、突然髪の毛を真っ黒く染めて登校してきたとか、はっきり目に見えることは把握できるけれど、そういう数々の奇行の理由も動機も俺は何ひとつ知らない。
全部理由や目的があってやったことかもしれないし、全部がただの冗談かもしれない。
今回のことだって。
俺の葛藤を知る由もない総悟が、積み上げたてっぺんからひとつ、蜜柑を手に取った。
半分に割った果肉から甘い匂いが漂っている。それを一房ずつ摘んでは、ゆっくり味わって飲み込む、の繰り返し。
人の気もしらないで。そう思うのと同時に、勝手に言葉が声になった。
「・・・キスでもすっか」
その瞬間、蜜柑のタワーは崩壊した。
総悟はばらける橙色を目で追っかけることもせず、俺にきょとん、としか言いようのない表情を寄越す。
「・・・え」
「ためしに」
「別に、いいです」
「別にってことは絶対だめじゃねえんだろ」
「・・・ほんとにすんの?」
「うん」
「・・・・・・!」
こう言えばそろそろ総悟は降参するだろうって。
いつもの冗談ならどうせ、また騙された進歩ねーなって俺のことを笑うんだって、そう思ってたのに。
顔を寄せた瞬間、総悟がぎゅっと目を閉じたりしたもんだから今更引けなくなった。
前髪が、頬を掠る。
(冗談みたいだ)
唇はかさついてて、さっき食ってた蜜柑の味がして、息継ぎも顔の角度も全然なってなくて、からかうチャンスなんてよりどりみどりだったんだけど、俺はばかだ。
うっかり薄目を開けて、目の前の総悟が目元まで赤くしてるのを見てしまったら、何も言えなくなる。
このキスが終わったら、聞いてみよう。
お前が付き合おうって言った理由。知りたいから。