土曜日 きょう寒いね。先日の飲み会で「男は中学生からオッサンなんだよ!」と五十代男性が言ってて斬新だなあと思いました。男ってのはいつだって心は少年説は古いのですか?折り畳みで小話です。沖田姉弟。 まるまるとした雀が数羽、もつれるように飛び立った。「おかえりなさい」玄関で出迎えてくれた、二か月ぶりのミツバの顔は、真昼の日差しの下でいっそう白さを増していた。思わず顔を顰めると、沖田の不機嫌を察した彼女は、気まずそうに羽織っていた前を寄せて肩を竦ませる。「つらくなる前に呼んでっていったじゃないですか」「忙しいの知ってるもの」「そんなのどうにでもできます。代わりがいないわけじゃないし」「すごく優秀で頼りにしてるって聞いたわよ」「近藤さんが大袈裟なだけです」「近藤さんだけじゃなくて、・・・隊長は立派に町の平和を守ってるって。立派だって。皆さんが」「いなけりゃいないでなんとかなりますってば」「だめよそんなの」「だめじゃありません」「だめじゃなくても私がいやだわ。約束したでしょう?」「だって」「ね?」なぜか言い負かされた形になって、ふ、と息をつく。「・・・ごめんなさい」「なにを謝るの」「無駄話が長くなりました。どうぞ」随分頼りなくなったミツバの体を抱き寄せる。沖田が喉元を晒すと、心得た唇が耳の下の柔らかいところに触れた。「ん」どちらのものともいえない吐息が、部屋の空気を震わせた。長く、抱えている体温があがったのを感じてもしばらくそうしていた。「ありがとう」「・・・ごめんなさい」「なにを?謝るのは私でしょう」「来るのが遅れて」すっかり血色のよくなった頬に触れると、ミツバの手が同じように沖田の頬に伸びてきた。指先になぞられた瞬間に、ぴり、と弱い刺激が走った気がした。「あの、」「どうして赤くなるの?」ミツバは嬉しそうに目を細めると、同調しているのかな、とひとりごとのように呟いて、離れた。沖田はたまに、ミツバのいうことがわからない。わからないままにそっと、自分の耳の下に触れる。触れただけだ。歯を立てられて、血を抜かれたわけではない。皮膚には傷も痕も残らない。だけど確かに、沖田からミツバへと、なにかを受け渡した感覚がある。沖田が子どものときからの習慣だ。お互いに触れ合って、なにかを交わしあって、充足させていた。沖田がほんの小さな子どもだった時は、ミツバから一方的に貰っていたはずだ。成長するにつれ、やり取りのバランスは変わっていった。あげたり、貰ったりの機会が半々だった数年間を過ぎて、この一年はこういう形に落ち着いた。+++弟さんが来てるんだって、よかったね。ええおかげさまで。これ持ってってよ。少しだけど。寝起きの頭で拾った会話が、食卓の上に広げられた多数の惣菜の大皿と繋がる。「ツツジのおばあちゃんからよ。おすそわけですって」屋号で呼ばれても、沖田にはいまいちぴんとこなかった。根菜や鶏肉がごろごろ入った煮物を取り分けながら、ミツバは嬉しそうにしている。ミツバ本人はろくに食べられないから、大部分は沖田の土産として持たされることになるのだろう。これは「帰る前に御礼を述べに寄りましょうね」ということだ。食後は二人で薄い焙じ茶を啜りながら、会話をした。「そろそろ次が必要ね」なんでもないみたいにミツバはいう。「まだ大丈夫でしょう」「だめ。この頃関節が軋むし、よく血を吐くのよ。二年・・・は持たないわ」「もっと、ちょくちょく帰ってきますよ。足りなくならないように」「それは嬉しいけど・・・。だけど無駄なの、ごめんね。この体はもう、せっかく貰ってもどんどん流れでていくの。ひびのいったコップみたいにね」「だけど適当な体がないでしょう」「そうね、もう少し使うつもりだったから・・・とりあえず必要なのは中継する体。命。こども、が必要」視線を交わす。さんざん話しあってきたことを確認するみたいに。「相手。貿易商の、あの男でいいかしら」「・・・姉上がいいなら僕は」「じゃあいいわ。ちょうど転がりこんできた縁談だし、顔もよく知らない。思い入れもない」「それは最もですが、ほんとうにいいんですか」「私はね、そーちゃんがいいって言ってくれたらそれでいいの。大事なのはそれだけよ」「僕だってそうです」「そうでしょう。うまくやらなきゃ」鳥の囀る声がする。冷めた湯飲みに茶柱が浮く。帰りの荷物と一緒に包まれた折詰には、惣菜の残りがぎゅうぎゅうに押し込められていて、きっと帰り道ではおせっかいなご近所さんに季節の花を持たされる。二人は嘘つきではなかった。この世界が好きでたまらないくせに、どうしても、どうしようもなく二人で生きることを選んでしまうだけだった。 PR