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金曜日

ピザ食いてえっす


折り畳みで小話です。
火を貸してくれと、俺の手からライターをもぎ取った総悟は、しばらくカチカチといじったあとに「壊れてる」と口をとがらせた。
火をつけてやって「どうぞ。」と渡してやると、「ありがとうぞんじます。」と総悟はにっこりほほ笑んだ。

どっから引っ張り出してきたのか、線香花火の束。
まだ桜が終わったばっかりだっていうのに、気が早いにもほどがある。
「去年の残りですよ」俺の視線に気付いたのかもしれない総悟が言う。

「別に今やらなくてもいいだろ」
「新しい家にわざわざ持っていきたくないんです」

総悟の手が、ベランダのはじに置いていた灰皿を引き寄せる。
雨ざらしになって、砂埃まみれのそれ。
そういえばこの灰皿は、総悟が買って来てくれたんだったなと思いだす。

灰皿に、次々と火花が落ちる。
ぱちぱち爆ぜて、涙形にとけた火が赤く燻る。そしてまた落ちていく。

「もう湿気て駄目になってるかと思った」
「だな」
「きょう、風、冷たいですね」
「うん」
「部屋の中入ってればいいじゃん」
「まあな」
「へんなの」

こんなに穏やかに話をするのは久しぶりだった。
怒鳴りあって、罵りあって。顔を見れば喧嘩をした。
はっきりした原因なんてなかった。だからこそ、ちゃんとした決着の付け方がわからないまま、衝突し続けたんだと思う。
よくもまあこんなに汚い言葉を覚えていたもんだと自分に呆れて、そんな言葉を吐かせるように挑発した総悟のことがたまらなく嫌になった。
終わりにしたい、と思ってたのはお互い様だろうけど、決めたのは総悟が先だった。
「出ていく。」俺はその言葉を聞いて、心底ほっとしたんだ。

段ボールは封をしたし、冷蔵庫の中で存在を主張する「総悟」ってでかでか書かれた食べ物だってなくなった。
いつも椅子の背もたれにかけてあったパーカーだって、もう見当たらない。
あとは鍵を返してもらえば完了。
明日からはもう全部が、出会う前に戻るんだ。

「明日、夕方から雨だって」
「そうですか」
「傘持ってたっけ、お前」

総悟は、残り十本近くある線香花火を、ひとつずつ手繰り寄せては火をつけていく。
ライターをうまく扱えるようになった総悟は、おしゃべりをやめた。
俺は一人で喋ってた。
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