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土曜日

コート掛けを買って居室の中に上着を置かないように様になってから鼻炎がマシになったような気がする。
そうじゃなくても所定の場所があるって散らからなくていいなって思いました。私基本的に整理整頓ができない・・・


折り畳みで小話です。女子沖で女子高生。


土方と沖田の付き合いは長い。
仲がいいのかと訊かれれば、揃って首を横を振る。
ご近所住まいで誕生日も二カ月違いということで、まずは母親同士が仲良くなり、その後進学や家庭環境の変化があったあとも、なんとなくの腐れ縁で、二人は一緒にいる。

土方はとりあえず沖田に報告する。それを義務と思っている節がある。
「実は俺は養子だったらしい」とか「転んで骨折して入院する」とか「バイト始める」とか「大学のランク上げることにした」とかいうときも、沖田は、ちょっとびっくりしたり納得したりしながら、「そういうこともありますよねえ」なんて、その都度頷いていた。
小学生くらいまでは殴り合い蹴り合いをしていたけれど、中学にあがったくらいからはなんとなく落ち着いた。
沖田としては、スカートの下にジャージを履いて、姉を悲しませてまで土方を蹴りにいくのもばかばかしかったし、土方は土方で、昔みたいに沖田にブスだのバカだの言うことがなくなったから。
そして高校生になった今えは、にこやかに挨拶を交わすまでになった。

沖田が友人たちと、デパートを冷やかしている時だった。土方からメールが入った。
いつものドーナツ屋で待ってるとのことだった。
報告がある日は、怪我や病気のとき以外、たいていドーナツ屋に誘われる。
ほどよく騒がしいし、ちょっと学校からは遠くて不便な場所にあるので友人達と鉢合わせすることもないし(つまり、妙な噂を立てられる心配もない)、カフェオレとコーヒーはおかわり自由だし、なにより沖田はここのドーナツが好きなのでちょうどよかった。
窓際に座って、沖田がこってりしたココア生地に齧りついたときだった。「好きな奴がいる」と土方は言った。
沖田はいつものように、そういうこともあるよなあ、と思ったけれど、口の中は食べ物でいっぱいだし、なんだかぐるぐると走馬灯のようなものが頭を巡っていて、すぐにコメントができない。
なので、カフェオレで流しこんで、一息ついて、ようやく「ふうん」とだけ言った。

「それだけ?」
「え?」
「お前、なにか言うことねえの」
「そりゃ、感慨深いなあとか、ありますけど。たまごボーロにむせてビエーって泣いてた土方さんが、いっちょうまえに恋愛感情というものを理解するまでになって……」
「うっせーよ。じゃなくて、お前はどうなんだよ」
「ボーロ?ふつうに食べてましたけど。土方さんはよく噛まずに飲み込むからねェ」
「じゃなくって。お前にも好きな奴いるって聞いたんだけど」
「だったらどうなんですか」
「え」

マジで、と。土方は言って固まった。沖田はそんな土方を冷ややかに見ている。
沖田の気持ちは友人たちにも話していないし、噂好きの親友にも突っつかれたことがないから、ばれているとは考えにくい。少し腹が立っていた。

「鎌掛けたんですか」
「ごめん」

謝られると、それ以上責められなかった。
皿の上のドーナツをむしり取って、頬いっぱいに詰め込む。

どんどん遠くなってくのを感じていた。
子どもの頃はどこにでも一緒に遊びに行って、泥だらけで走り回って、何すれば泣くのかとか怒るのかとかも全部わかってた。喧嘩するのもしぶしぶ仲直りするのもすぐで、ぎゃーぎゃー言いながらもどこにでもくっついていってたのに。
(なんで大人になっちゃうんだろう)
毎年毎年、少しずつそっけなくなっていく土方に当てつけるような気持ちで、沖田も穏やかに笑ってみせていたけれど、内心ずっとつらかったのだ。
「報告」するのは詮索されたくないからじゃないか。
最低限情報を渡すことで沖田を牽制して、近所付き合いを理由にべたべたされるのを避けようとしてるんじゃないのか。
それを裏付けるみたいに、「忙しいから」と以前は当たり前にやっていた雑誌やゲームの貸し借りすら拒むことが増えた。
土方には土方の生活がある。それを理解してから沖田は、気楽に家に遊びに行くこともなくなった。

たぶん土方は、順調にその好きな子を彼女にするんだろう。
(そしたらきっと、その彼女と長電話して、家にも遊びに行って、手とか繋いでデートするんだ)
もしかしたらこのドーナツ屋にも来にくくなるかもしれないと思うと、悲しくなった。

沖田は会話もせずにもくもくと、手元のドーナツをちぎっては口に運んでいく。
冷めたコーヒーのマグカップを弄ぶ土方は、明らかに沖田の様子に戸惑っている。
雰囲気に耐えかねたのか、沖田の膝の上にある紙袋に気がついた土方は、それを指さしながら、つとめて朗らかに尋ねる。

「……チョコ、誰にあげんの?」
「あんた以外の誰かに!」

ちょうど最後のひとかけらだった。
ココア生地のかたまりを土方の間抜けなくちに押し込んで、沖田は席を立った。

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