木曜日 大好物の桃をむっしゃむっしゃ食べたらクチかゆくなったんですけど気のせいだと思いたい。折り畳みで小話です。 おわりにしよう、とベタな台詞を意を決して告げたら総悟は、「そんなこったろうと思った」とあっけらかんと言ったのだ。円満にあのただれた関係を解消できるなら誠に結構。心底ほっとして、ほっとしたら煙草が欲しくなって懐に手をつっこんだ。一本取り出したところで横から手が伸びてきて、箱も指のあいだの一本も奪われる。なんだよ、と咎めようとして、ようやく総悟が笑っているのに気付く。「手切れ金代わりに」なんだか面倒くさいことを言いだしたと思ったのもつかのま、どうやらその、開封済の煙草で収めてくれるらしい。総悟はまず一本を口にくわえ、手慣れた様子でプラッチックの緑のライターを取り出すと、掌でかこって火をつけた。「吸うの?お前」「たまにですがね」「見た事ないんだけど」「そりゃ。四六時中一緒にいたわけじゃないですし」確かにそうだった。熱に浮かされたみたいな愛(仮)と性欲に突き動かされて必死に時間をつくってたのなんてほんの一瞬で、あとは惰性で、この頃は理由をつけちゃあ避けていた。嫌いになったわけじゃなかった。ただ。「あんたはつまり、飽きたんでしょう」言い当てられて、なんだかむっとした。「違う」と一応言ってみるが、総悟は取り合わない。「寝ちまう前からわかってたんです。だって俺とあんたじゃ、マンネリになるに決まってやす。慣らして突っ込むだけ。語り合う夢も囁き合う愛もなけりゃ、この先の展開なんてありゃしない。長く続けられるわけないじゃねーですか」「布団の中でごそごそしてただけの思い出でさァ」ここでぷはあと煙を吐き出して、総悟はきゅっと目を細めた。そりゃあ花を贈ったり海を見に行ったりするわけもないから、しかたなかった。それしかなかったんだ。それで充分だって思ってたし。言い訳は口の中で噛み砕いて飲みこんだ。俺はそろそろ切り上げたい気分。「まあなんだ、いろいろ悪かったな。お前もさっさと忘れちまえよ」「そりゃあ勝手てもんですよ」「は?」「あんたが他の女のとこいこうが所帯持とうが野垂れ死にしようが、俺とあんたが寝てた事実は消えねえし、忘れやせん」「脅す気か」「いいえ。貰いやしたから、手切れ金……」あいかわらず笑い顔だったはずの総悟の、睫毛の先が震えた。水分を吸って少したわんで光っていた。たぶんそれにほだされた。「やっぱ返せ」言うのと前後して、唇から煙草を引き抜いてそのかわりに唇を、押し当てて。数分前に告げたばかりの提案をあっさり翻して、きっと総悟にいやってほど罵倒されるんだろう。 PR