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出張あけまして、ただいま懐かしの我が家。と思ったらこの蒸し暑さがお出迎えですよ。
いつの間にやら夏がきていたようで。あらあらお構いもしませんで・・・(いま何月だと思ってんだよくるの早えんですよ)
私の部屋の棚の上には土方さんのキーホルダー(貰い物)と山崎のSDフィギュア(貰い物)が並んでいます。
けして「そごたん以外いらないしあげるわ」という消極的な理由からではなく
「あなたは土方さんが好きだものね」「山崎と付き合いたいって言ってたものね」という思いやりから、私の手に渡ったのです。友情を感じるなア(棒読み)
折り畳みで小話です。
梅雨が明ければ沖田はこの店を出ていく。
七年も勤めあげたのだから充分だとか、あれだけ稼げるのにやめるのは惜しいとか、でも評判悪かったんでしょうここのところ、あの左手を見た?なんて。
それぞれ勝手なことを噂し合っていたけれど、本人は聞こえているのかいないのか、おはようございやすなんて欠伸をしながらゆるうりと年増の同僚たちの横を通り過ぎていく。
顔を洗って、身支度をするために戻った沖田の自室には、鏡と布団くらいしか物がない。
着る物は店が店が用意した、素っ気ないものを飽きもせずに文句も言わずに袖を通している。
女たちのように花だ香だと競い合って飾り立てて喜ぶ楽しみもなかったので、仕方ないことだった。
目を瞑ってからだを丸める。
そうすると瞼の裏にひっきりなく、人の形が浮かんでは消えていく。
明け方見た夢なのか、きのう自分が「みた」夢なのか。確かめながら、右と左に振り分ける。これをしっかり済ませておかないと、とてもじゃないけれど今日の仕事なんて、はじめられない。
ひとつひとつは大して強くなくっても、数が集まれば毒になる。
畳が湿気を吸って冷たい。気がそれたときだった。
雨音に混じって足音がした。障子の向こうで立ち止まる。誰かはわかっている。
「総悟」
座敷に行く時間に呼びにくる、この男のことを沖田は嫌っていた。
商売道具の左手を、雑だと自覚している沖田本人だってそれなりに、だいじに扱おうとしているのに。
この男は、手首を痛いくらいにがっしと掴んで、沖田を座敷に連れて行く。
それも袖でくるむようにして。
沖田の左手は、触れるだけで、心のなかみを覗くことができる。
それを買われてこの店にきた。
人のためになるというのはそのまま、金になるということだと教えて貰った。
誇りや奢りを持つ前に、世間というものを知らなかったほんの幼いころだって、気味が悪いと塩を巻かれた覚えがあるから、この男の行いがどういう意味なのか、沖田にはよくわかった。
故郷に帰れる、それは、この男の顔を二度と見なくていいっていうこと。
それを思うと、沖田はうれしかった。指折り数えて、一日一日を過ごしていた。
「総悟」
今朝も弱い雨が降っている。それに紛れるように、男が部屋に入ってきた。「すこしいいか」といって。
名前を呼ばれる以外になにか喋ったことがあったかだろうかと沖田はそこに驚いて、うっかり侵入を許してしまった。
どうせ座布団もなにもない部屋だ、男と沖田は向かい合って、畳の上に腰を下ろした。
「お前、もうすぐ店を出るんだろ」
「もともと七年、そういうお約束でつとめさしてもらいやしたんで」
「残るわけにはいかないか」
「ご冗談を」
「なにも笑かしでいってねえ。田舎に帰って食い扶持稼ぐあてがないなら、こっちに留まりゃいいだろうよ」
「ご存知ないんで?稼ぐもなにも、俺の左手、もうほとんど役立たずなんですよ。だから一日一人しか受けてないのに…上も周りもとっくに知ってらァ、知らないのはあんたぐらい」
男が黙り込んだことで、沖田は内心、ざまあみろなんて思っていた。
毎日毎日少しずつ溜まっていった小さな鬱憤の、しかえしをしているような気分だった。
「ところで」
男が懐から煙草を出す。
沖田は再び驚くことになる。なんせこの男ときたら今まで、沖田を呼びに来て座敷に押し込んだらまた客が引けたころに部屋まで連れて帰る。そんな機械のような、決められた動作をしていただけだった。
「お前の話をしてくれないか、総悟」
仕事は?と沖田がたずねたら、「今日は俺が客だ」と返される。
いくらもう流行っていないといっても一日一人二人は客をとっていたのに、そんなことがあるんだろうか。
沖田にはよくわからない。
なにもいわないでいると、煙を吐いた男が痺れを切らしたのか、沖田に問いをなげかける。
「好きな食べ物は?」
そんなことでいいのか、と沖田は素直に口を開く。好きな動物、苦手なこと、悲しかったこと、貰ってうれしかったもの。
嫌いな人、と聞かれたときは指差した。とくになにもいわれなかった。
そして、故郷に好いた相手がいるのか、と。
「そりゃあ、いやすよ」
へんなことを聞くなあと思いながら、沖田はこたえた。
すうっと、男の目が細くなった。
「戻って一緒になるのか」
「俺のこと好きだったひとはみんな墓の中でさァ」
男は黙っていた。
しばらくして、「悪かった」といった。すこし青ざめて、そのまま俯いてしまった。煙草の火がそのひとの指先を焦がしそうになるのを、沖田の目が追っていた。
違うのはわかっている。鼓動の音ではなく、雨が屋根を打っているだけだ。
沖田は自分の左手に右手に重ねる。
そういえば、名前すら知らないことに気付く。
目を合わす前に、口を開く前に、手を伸ばす前に。
まだすこしふたりは、雨音をきいていた。