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木曜日

もういいや明日の分の日記も書いておこう。
ひさびさの通勤つかれましたーっと!


折り畳みで小話です。


ちょっとお化粧直しに、なんつって席を立ったパー子さんの残り香は汗とフローラルのブレンドだった。
しっかりと組んだ両手を額にあて、思わず祈るようなポーズになる。
「具合でも悪いんですかィ」総悟がのぞきこんでくるのが視界に入りこむ。深く頷く。あたりまえだ。


「ほんと顔色よくねえです。パー子さんが戻ってきたら一回、ゲロ吐きにいったほうがいいですぜ」
「もう俺は今すぐ個室にこもりたいよ・・・・・・」


同じ空間にいたくない。
そしていっそ、つらい浮世と縁を切りたい。
この虚無感はなんだろう。理解されないことへの絶望?
方手じゃ足りない年数を費やして言い聞かせた、「まともな相手と付き合え」という俺の説得を、こいつは右から左に聞き流していたってこと。それがしみじみと堪えている、そうに違いない。
つーか通報されんじゃねえの。うっかり漏らした失礼な一言を拾った総悟が、声を潜める。


「だいじょぶでさァここのファミレス、お手洗い男女共用なんで」
「・・・へえー気がきくようになったなお前ー」


なるほどああいうナリの方にとっちゃそれは重要な問題だろう。
感心したのはまったく嘘じゃないけれど、それよりもまだ、衝撃のほうが上回っている。それゆえの棒読み。


「パー子さんね、すっげえ苦労してんです。前のアル中気味の彼氏に暴力振るわれてて、改心したっつってその彼氏が事業起こしたのはいいけど結局、年末の資金繰りうまくいかなかったとかで借金残して消えちゃって」
「ああそうなの」
「彼氏のこと吹っ切れたって強がってんですけど、そんな簡単に傷って癒えないでしょう?そのうえ借金返済しなきゃって毎日身を粉にして働いてるし、心身ともにぼろぼろなんです彼女」


穏やかな総悟の声が鼓膜に優しい。
しかし内容は相変わらず不愉快だった。プチプチと泡のような怒りが湧いては弾けていく。
いやだいやだいやだ。
殴りたい。
総悟じゃあるまいし、感情のまま行動するだなんて、したくないのに。

「だからそばにいて、支えてやりてーんです俺。・・・・・・付き合っても、いいですか?」
「だめに決まってんだろ!」
「土方さん」
「総悟てめえな、舐めてんじゃねーよ。あんなのと付き合うのほいほい許可するとでも思ったのか」
「あんなの、ってそんな言い方ねえでしょう」
「あんなのはあんなのだよ」


少なく見積もっても十、もしかしたら干支をひとまわりするかもしれない。
総悟の馬鹿野郎はガキだから分別がない、で片付けられても、いいオッサンが好きだなんだで十代とそういう関係になるだなんて、理解できない。そうだ要は着飾ったオッサンだ、あんなのは。
それに、さっきの話。
ざっくり耳にしただけだっていうのにきなくさいニオイがぷんぷんする。赤チェックを入れていいなら血の海レベル。
どれをとっても脳内の警報機が反応する、いっそ感嘆するような品揃えだ。
めげない総悟は真摯に言葉を繋ぐ。


「土方さんは、今会ったばかりだからわかんねーんです。なんていうか、あのひとは・・・心があったかいんです。すごく」
「は、中身に惚れたって?」
「笑うことないでしょう」
「呆れてんだよ。そうやって自分は好きなように恋愛ごっこして、お前。また姉ちゃんの寿命縮める気か」
「・・・・・・っ」


勢いのままに喋りつくして、すっとしたけどすぐに、総悟が見たことないような顔をしているって、気がついた。
言いすぎた。
総悟の唇が震えている。


「そ・・・・・・」


しまった、と思った俺に、ざあっと降り注いだのは氷水。
雨だれのように前髪から滑り落ちる水滴に呆然としていると、いつの間にか戻ってきていたごつい銀髪が、テーブルの横で仁王立ちしていた。


「ごめんなさぁい、手が滑っちゃったかもー」
「パー子さ・・・・・・」
「そーちゃんお腹すいてない?アタシんちでご飯食べよっか」
「でも」
「そこの水も滴る二枚目に許可取る必要なんざねーよ。言っていいことと悪いことの分別もつかねえ、ただのハンパもんじゃねーか」


なにするんだ、とか。
ついてくんじゃねえよ、とか。
言えるほど俺はふてぶてしくなかった。


総悟は500円玉をひとつ置いて、俺と視線を合わせないように俯いたまま、去っていった。
もちろん、恋人と手を繋いで。

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