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木曜日

お昼にうどんと親子丼のセットを注文した後で「韻を踏んだな」と気付きました。
どういうわけか糖質八割の食生活が常であるのにここ最近、急に肉類が食べたくなりましてね。
しかし食べると腹痛と肌荒れに悩まされるという複雑な愛憎関係。


折り畳みで小話です。明日に続くので半端はノーセンキューな方は流してください。


三年と一カ月ちょっとの顔見知り、総悟と初めて会話を交わしたのは、俺が引越しをする前日のことだった。
マンションの住民なんて、お互い存在が薄いに越したことはないのだ。





「こんにちは」

幻聴かと思ったら実体があって驚いた。
少し遅れて、話し掛けられたことにも驚いた。

よく見る顔だった。線の細い、幸薄そうな印象ばかりを覚えてた。
「こんにちは」考えた末に出てきた言葉は鸚鵡返しの挨拶で、それが今の精一杯。
意外にもお気に召したのか、目の前の十五六の子供が口元だけで上手に笑う。
つられて俺も、笑いそうになった気恥ずかしさを、噛んで誤魔化すために少しうつむく。

「ねえ」
「ん?」
「アンタ、ヒジカタ、ってどういう字書くの」
「・・・なんで名前知ってんの」

「いっつも連れのコが呼んでたから」納得した。だらしないと友人たちには非難轟々の俺の習慣、スパンが毎度短い彼女『たち』は、いつも下の名前に移行する前に去っていくから。

「ひじかたさん、な」年上の威厳を強調したうえで、説明してやる。電話口の向こうを相手にしているみたいな気分になる。
宙に透明な文字を浮かべているのかそいつは、きろんと目玉を光らせながら、上目づかいでどこか遠くに媚を売る。

「土方さんか」
「お前は?」
「内緒」
「なんでよ」
「じゃあ餞別代りってことで。ソウゴ。」
「どういう字?」

こんどは逆転して、まるで出来の悪い生徒に指南する教師のごとく、指先で書き順まで交えて解説された。
口の中で三度くらい呟く。暗記でもするつもりなのか俺は。

「総悟」

呼んでやると、今度は目元もくしゃっと緩めて笑う。

「土方さん」
「なんだよ総悟」
「土方さん」
「総悟」

即席の、コントの中みたいな仲睦まじい様子に半分酔いながら返事をする。
その最中総悟が口を開いた。

「土方さん、ごめんなさい」
「・・・は?」
「俺、アンタに謝んなきゃってずっと思ってたんです」








つづく。
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