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火曜日

(追記しました。なじられなくて済むように。)
こないだ「山沖っていうよりも山+沖の雰囲気が好きですね」とか言ったのがよくなかったのかもしれません。私のハートに火がついた。だってしょうがないじゃない、沖田が右側にきていればいいじゃない・・・

そんなわけで山沖祭です。山→沖です。今日ばかりは山沖です。
読んでから「おいお前さっきなんつった」と私をなじってくれればいいじゃない?と思います。

俺が初めてここに配属された日はホームランボールの幻が見えても不思議じゃないってくらいの真っ青な空が広がっている晴れの月曜で、俺の記念すべき人生の第二の門出とするには申し分ない、いっそ申し訳ないくらいのみずみずしい希望に満ちあふれていた。

「君が山崎君か」
「どうぞよろしくお願いします」

初めが肝心とばかりに俺は普段よりも念入りにふかぶかと礼をしたわけだが、近藤局長は(このときが初対面だったのだが)地面と水平になった俺の背中をばしっと叩き、「山崎君は真面目だなあ、こちらこそよろしくな!」と俺が情けなくも力強い掌の作用に屈してよろりよろけるのを見て豪快に笑い、「いやあすまんすまん、感激のあまり!悪かったな」なんて奥歯の奥まで真白いのを見せつけながら謝るもんだから俺は「若くして役職持ちの割に随分砕けた方なんだなあ」もっとでたらめに規律に厳しいのかと思ったのに。でもこういうおおらかさがトップに立つ人間には必要なのかも、と着々と心のメモを書きこみながら、いえいいんですどうも、なんてエヘヘウフフと薄ら笑いを返していたりしたのだった。

「じゃあそうだな、次はうちの連中に顔見せといくか」
「よろしくお願いします」
「幹部から順に・・・あっとしまったトシは居ないのか、しまったな、キミは監察に配属だしまっ先にトシに紹介しなきゃいかんかったのに」
「トシ?」
「ああごめんごめん、うちの副長のことだよ。土方十四郎、略してトシだ」
「はあ」
「今日は出張なんだよなあ・・・んー、困ったなすると総悟も見つからないかもしれん。あ、総悟ってのはうちの自慢の一番隊隊長ね」
「自慢の、ですか」

実際のところ、巷でもかなりの評判だ。ここの一番隊はすごいって。
井戸端で囁かれるのは、戦車並みだとか鯨並みだとか台風のようだとか九月の土砂降りみたいな感じだとか、おいおい噂にしたってもうちょっと具体的に説明しなさいよ、と茶々を入れたくなるようなものばかりだったけれど。
ばかみたいに強い、てのだけは間違いないはずだった。
いくらここがやっつけも甚だしい政治的象徴の組織だっていったって、笑っちゃうくらい弱い軍隊じゃお話にならない。

「最近はかくれんぼに凝ってるらしくてなあ。あんまり上手に隠れるもんだから、俺達もなかなか探すのに苦労してなあ。トシは・・・副長ね、副長はそういうの得意でさ、わかさぎ釣りみたいに、ぱっ、きゅっ、て感じなんだけど」
「へえ・・・はは・・・」
「うーん。どうしようかな俺もこの後すぐ外出しなきゃならんし・・・そうだ」

掌をぽん、と叩くというジェスチャーなんて久々に見ました、なんて感心してる俺の感動を置き去りに、局長直々、俺に下したはじめての命令、つまりここでの初仕事はほかでもない。
沖田隊長を探し出す ことだった。




☆ ☆  ★




屯所と称されるここは敷地面積も冗談みたいに広大な上、武家屋敷特有の入り組んだ造りになっていた。
それだけじゃない。なんのいやがらせだろうとネガティブになっても仕方ないような面倒くさい増築もたびたび行われているようで、消防法のアレコレが頭をよぎったほどだった。
引き返したはずが見たことのない廊下に出る。障子だ襖だ硝子戸だとどんどん進んだってのにしまいに現れたのは半畳ほどの物置でした、というオチ。
こんな状況だ。ぽっと誰かに行きあうたびに俺が、生き別れの兄弟との感動の対面よろしく、熱烈に人とのふれあいを求めてしまったのはしかたがないことだと思う。

「あなたが一番隊隊長ですか!?」
「いや、違うけど・・・誰だお前」
「はっ申し遅れました俺は今日から監察に配属されました山崎です!実はかくかくしかじか」
「ああそりゃ来て早々災難だな」

俺が身分証を提示しつつかいつまんで説明すると、誰もが(正確には局長に命を受けたのちに遭遇した七人のうち七人全員が)気の毒そうに深刻そうに声色を作って、俺にねぎらいの言葉をかけてくれた。
室内なのに暗雲が見える。俺の胸にどんよりと。それでも俺は手掛りを得ようとスイマッセーンとめげずに人影を捕まえる。曲がりなりにも仕事だし。

「隊長?見てねえなあ」
「そうですか・・・」
「隊長はなー、このごろ機嫌悪ぃから下手に探さない方がいいかもしれねえよ」
「そうそう、今日はお目付け役の副長も留守だし。気ィ立ってるから近寄るだけでメッタメタのギッタギタにされるかもしれない」
「そんな物騒な方なんですか・・・」
「凶器が服着て歩いてるようなもんだよ」
「なんたってうちの一番隊隊長だから」

新任早々死ぬなよなんて、ありがたいんだか怒っていいんだかなエールを背負い、俺はちょっと涙目だった。
だいたい初日なのに、直属の上司となる人は外してるし、任務っていうよりこんなん子供のお使いだし、子供のおつかい程度のはずがなかなか『自慢の一番隊隊長』は発見できないし、ここの人たちはからかってんだか本気なんだか知らないけれど、不安になるようなことばっかり言うし。
ああもう、見つかりませんでしたってことにしてしまおうか。
直進した廊下の突き当たり、力任せに引いた扉の外には夕暮れが広がっていた。
肩にどっと疲れが降ってくる。

「なんだよ」

溜息だけのつもりだったけれど夕暮れってなんだかセンチメンタル。ここぞとばかりに不満が弾けて飛びだした。

「まったくもう幾つか知らないけどいい歳した大人がかくれんぼ?機嫌悪いからギッタギタ?ふざけんなって感じだよ」
「だよなァ」
「うおっ!?あ!」
「かくれんぼなんてもんじゃねェのに。俺のはストライキとかデモンストレーションって言うんでィ」

十三か十四、それくらいの年恰好の子供が、きらきらと夕陽を纏って立っていた。
俺の視界が狭くなった。もうそこの、目の前の光の権化みたいな生き物に意識をすべて、もっていかれるような錯覚。
なんなんだなんなんだ
まるでそう、この世のものとは思えないような!
ああでも足元に黒い影が落ちている。実体はちゃんとここにある。

「ところでお前さァ曲者なら斬るンだけど、いい奴悪い奴どっち?」

ぽーっと夢に片足どころか肩まで浸かっていた俺が斬られずに済んだのは、その人がすらりと抜いた刀の刃が夕陽の橙色に瞬いたのに気付いたナイス反射神経・及び長年培った「俺は怪しいものじゃないんです」的したっぱオーラのおかげだと言えよう。
飛びあがって、膝を揃えて手を合わす。

「山崎退。本日付で監察配属です以後お見知り置きを。近藤局長のご指示のとおり、あなたを探しておりました」

このひとが沖田さんだ。

間違いない。
『うちの自慢の』一番隊隊長、沖田さん。
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