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金曜日

昼食のため外出したら雨が降り、傘を購入したら雨が止み、カンパーニュを頼んだらパニーニが出され(エクセル塩ールにて)、文庫本を開いたら数十ページ先の「あなたたち全員が犯人だったんですね」という壮大なネタバレをドンピッシャーとかまされて、ああもうそういう日だったんだな・・・私を付け上がらせないようにしようぜ!的な。と思いました。付け上がるほどいい目見てませんての。殴るぞ。(誰をだ)

しかも傘忘れてきたじゃないか。
折り畳みで小話です。
「近藤さん見やせんでしたか」って見上げてきたガキ、もといウチのぴかぴかの一番隊隊長に、「松平のとっつぁんとこだろさっき車乗せられて出てったばっかだ」って事実をありのまま伝えてから、まずかったって事に気付いたのは、こいつが余所行きの袴で玄関先をうろうろしていた理由に思い当たったから。

(・・・慌ててたもんなあ)
喫緊だ一刻を争う火急の用件だとかなんとか、真偽の程はともかくあの極道張りの強面に凄まれて、とるものもとりあえず、上着と刀だけさらうようにして居間を駆けていった後ろ姿は、悪気こそないがたぶん、ちっさな約束を忘れてしまったんだろう。

時計は三時を指していた。

「ちょっと付き合え」

半ば引きずるようにして、浮かない顔の総悟を街に連れ出した。



「落ち着いて食えよ」

近藤さんと総悟が揃って出かけるような場所?知るか。「近藤さんにすっぽかされたみたいだし俺が代わりに連れてってやろうか」なんて、まさか言わない。たとえじゃなくて、殺される。
見なかったふりも有りっちゃ有りだったけど、それでもあからさまにしょげてるガキをほっぽっとくのも気が引けて、どこへ行くかもろくに考えていなかった俺は結局、以前立ち寄ったことのある茶店へと、記憶を頼りに辿り着いた。
腹減ってねえよ、なんて毒づかれたら年上の怖さを教えてやらなくもない、と意気込んでいたものの、ごきゅ、とかいって喉を鳴らしたのが聞こえたので、思わず眉間の皺も緩んだ。
総悟が大事に匙を入れているガラスの器のクリームあんみつは、もう寒天ばかりが残っている。

「なんで女子供ってなぁ、甘いモンばっか食うんだろうな」
「甘味処に来て馬刺しや酢味噌和え頼む奴ァいねえでしょう」
「そりゃそうだが」
「土方さんはコーヒーにはマヨネーズ入れねえんですかィ」
「当然だろ」
「アンタの当然の基準なんて知ったことかィ」
「・・・かわいくねえの」

と、そこで俺は突如、こいつを猫っかわいがりとまではいかないが「同居してる孫」状態でかわいがっている(そして本日の失態を後ほど悔やむであろうことは確実な)人物のことを思い出した。
宴会だ晩酌だ、と酒を飲む集まりがあれば必ずすみっこでちびちびお猪口を傾けている総悟に、ほらこっち来いこれも美味いぞ、なんて特撰鬼嫁なんて与えている近藤さんに、先日俺はなんて言った?
「甘やかすな」。
言った。
みーんと耳鳴りがする。よくねえな。って、淡い後悔が押し寄せる。
嗜好品ってのは大人になってから楽しむもんで、若いうちから浸かるように摂ってちゃあいけねえんだよ。

「・・・近藤さんには内緒な」

というわけで今後のために口止めを、試みる。
ええだってトシだって総悟に甘いじゃない!という逃げ口上をさせてはいけない。
総悟はわかったようなわからないような顔をして、器の底から発掘したみつまめを上手に口に運んで噛み砕いた後、首を傾げて、こう言った。

「ヤマシイ、んですかィ」

覚え立ての言葉を使いたがる気持ちはわからねえでもないが、嬉しそうに言うなそして使いどころを考えろ、それは正面切って聞くもんじゃない。
そしたら俺は、馬鹿そんなことねえよ、って言うしかなくなる。
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