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もういっちょ

有言実行。



あの十月は僕が

僕らが、万事屋でいられた

最後の季節だった。

 

 

この時期特有の、乾いた空気の匂いに鼻を鳴らす。
僕らは約束通り、決められた時間ぴったりに、公園の前に集合した。
公園と言っても実際は、目印になるような時計台も遊具も、座って休むベンチひとつなく、公園とペイントされただけの看板が寂しく主張しているだけの、ただの更地だったのだけれど。

五年ぶりに会った神楽ちゃんは、頭ひとつ分くらい、背丈が伸びているようだった。
そんな身長が伸びたわけじゃない、ヒールがある靴を履いているのよ。とぴかぴかの踵を自慢されたけれど、僕にとってはどちらにせよ、同じことだ。

あれから、長い時間が流れたんだ。

「ひさしぶりだね」
「そうね。新八は元気そう。姐御はどうしてるの?」
「旦那さんとうまくやっているよ。できた人でね、姉上のあの手料理に我慢できなくなって、このごろはいっしょに台所に立ってるんだって。楽しそうに話してくれたよ」
「花嫁姿、ナマで見たかった。残念だった」
「仕方ないよ。もう宇宙に出てたんだし、ちょうど見習いで忙しい時だったんでしょ?姉上だってわかっているよ」

歩こうか。僕は言う。神楽ちゃんは頷いて、僕のあとに続く。

「銀ちゃんは悪い男だった」
「そうかな」
「イイ女を袖にするのは、悪い男よ。最悪で最低。宇宙の法則でそう決まってるの」
「なんだか無茶苦茶だなあ。僕は、そんなふうには思わないけど」
「大江戸界隈の女のハート、根こそぎ持ってって、誰のことも選ばないで、そのままふらっと逃げちゃうだなんて。甲斐性ナシにも程があるわよ。あんな男を持ち上げてるようじゃ、新八もまだまだ青いのね。夢、見てんじゃネーぞ?」
「もう無理だよ」
神楽ちゃんが、瞬きをする。
「僕の中で、銀さんはもう、ひとつの理想なんだ。・・・うん、だらしなくて、甲斐性ナシでいい加減ってのは、僕もそう思うけど」
「骨の髄まで知り尽くしてるのに、それでも崇拝できるってよっぽど重症みたいね」
「でも、それは神楽ちゃんだってそうじゃない?」

二人分の笑い声が響く。
二人だけの。

 

 

僕は、あの日、銀さんを見送った。

寒い日だった。
銀さんのマフラーから覗く鼻が、子供みたいに赤くなっていた。
「こんな寒いのに早起きなんて、珍しいですね」僕はそう言って、万事屋の階段に足を掛けた。
コンビニにでも行くのかな、と思ってとくに気にも留めなかった。

「新八」

なんですか、と聞いても銀さんは何も言わなかった。
「元気で」「またな」「風邪引くなよ」あるいは、「あいつのことを頼む」
なにも言わずに、手を振って首をすくめて、白い息を吐きながらのんびりと角を曲がって、

それきりだった。

僕は泣いた。神楽ちゃんは泣かなかった。
だけど万事屋でひとりになった時は泣いたんだと思う。
絶対帰ってくる、早く帰ってきてって。きっと、ずっと前に銀さんが消えたときみたいに。

一年待って、二年待って、お登勢さんが体を壊して店を畳んだのをきっかけに、万事屋は取り壊された。
神楽ちゃんは思いのほかあっさりと、宇宙へ向かった。
そして僕は道場を継いで、この街にいる。

「神楽ちゃん、なんて呼ぶのもおかしいね。」
「何が?」
「すっかり大人っぽくなったから」
「だから新八はダメガネだっていうのヨ」

わざと昔のような、くせのある訛りをして、神楽ちゃんは傘を反回転してみせる。
赤い影が、僕の足元に落ちた。

目に映ったその赤が、身体の中を巡るのを感じた。

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