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金曜日

形にならんかった山沖を。

折り畳みでどぞー





あなたのことを好きですよ、と言ったその日に、その人は、なんだかところどころ解れた、薄紅の紐をどこからか持ってきて、俺にこう言ったのだ。
「土方さんは、縛るのが好きなんだ」
俺は頭が痛くなる。泣きそうになる。なった。泣いた。

そりゃあ、この人、俺の想い人、好きな人、目の前の沖田さん。が、副長と親密なのはとっくに知っていたけれど、心のどこかでその親密さというのは所謂、プラトニックな・・・清らかな、子犬の兄弟のじゃれあいみたいな、そういう、俺にとって優しい関係であると、思っていたから。
世の中なんて薄汚れた事実ばっかりだ、と幸福な胸の中の世界に黒い幕が降りつつあった俺を、蒼い無邪気な(無邪気だとも、たとえこの人が性悪サディストひねくれ者だと箇条書きにすれば1ページに納まらないほどの大物だと聞きかじっていようと。)・・・無邪気な目が、覗きこむ。

「なんです」
「そやって嫌な顔すんなって。別にばっちい事に使ってねえし」
「・・・・・・」
「土方さんは、俺を縛らないとゆっくり眠れないらしいんだ」
「副長の夜の趣味なんて、あまり詳細に聞きたくありません」

そりゃ興味はあるけれど、万一、俺がなにか弱味となりそうな情報を握っていると知られたら、ひとときの好奇心とひきかえに俺は、なにか桁はずれなダメージを被りそうな気がする。否、これは、経験に基づいた確信だ。
あいにく屯所の井戸は、埋め立てられていて叫んだところで響きやしないし。

「あの人は、ほかに縛りたいものがあるんだけど、馬鹿だからそれが何かわからないんだ」
「はあ」

沖田さんは俺の話を聞いているのかいないのか、淡々と話を続ける。手の先の紐を大きく揺らすものだから、巻きついて、薄い桃色の渦ができる。きれいだ。

「最初はおもしろかったけど、俺はもう疲れたから、山崎代わって?」
「は、あ?」
「大丈夫、部屋は暗いし、黙ってりゃばれないって。おまえ、俺と同じくらいの背丈だろ」
「いやですいやですばれるに決まってるじゃないですか!」
「ばれたって構わねえよ。土方の野郎が何か言ったら、沖田は死にましたって伝えとけ」
「いやですよ。罵倒されたり責められたりすんのは俺なんですよ」
「それこそお前にとっちゃ本望だろ」

そして沖田さんは、あの淡い色の髪の毛で表情を隠してしまった。
長く長く、沈黙を膨らませて、密度の濃い空気はやがて、天井まで埋めってしまう。
俺は沖田さんの袖に絡んでしまった紅の細い繊維を、一本一本ていねいに、ひきはがす。
沖田さんはそれを咎めない。幼子のように、なすがままになっている。

「お前だって、俺のポジションが欲しいだけなんだ」
空耳くらいに頼りないボリュームで、それは届いた。
違いますよ、と俺が返すと「嘘付き」と低温な言葉が戻ってくる。
ガラス玉のように地面にはじけた涙声が、狭い部屋に響いて消えた。

妬むのは忘れた。
憧れだけ残った。

今夜も、この人は副長に縛られる。
断るのも引き千切るのもたやすい、この粗末な紅紐に。

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