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土曜日

夜クラがかわいくて繰り返しみてる


折り畳みで小話です



「なー山崎ィ」

ずー、と薄緑いろの元クリームソーダをすすり尽くした音がしたので嫌な予感はしたのだ。

「おれもう飽きたんだけど」
「沖田さんが勝手についてきたんでしょーが」
「帰る」
「いま移動したら目立つでしょ」
「おれが目立っても別にいいじゃねーか。心配すんな山崎おめーファミレスの壁紙そのものだぜィ来世の就職先決まったな」
「この仕事しくじったらマジで考えます」
「そんな込み入った件じゃねーって言ってたじゃん」
「込み入った件じゃないからこそ!しくじったら副長が切腹だ死ねだってうるさいんですよっ」

小声でもそもそ苦情をまくしたてるも、沖田さんはどこ吹く風だ。通常営業。
「ドライブ気分」とかいって覆面パトに乗り込まれたときに断固拒否で引きずりおろさなかった一時間前の自分を恨む。

「なーあと何時間くらい?てかどうすりゃあがりなんでィこれ」
「ほんっと俺の話聞いてないですね」
「当然」

こっからかろうじて確認できるボックス席のカップル。
その女側の動向を少なくとも一週間分おさえて、勤め先から交友関係、不審な動きをしてないかどうかしっかり調査するのが目下の俺のお仕事。
と、ざっくり車内で伝えたはずの内容をリピートする。ふんふん聞いていた沖田さんは、「というわけです。」という俺の締めの言葉を聞き終わるのと同時ににやりと笑う。

「早く言やいいのに。あの女なら知ってる」
「え?」
「フルーツパーラー裏の新しくできたラブホで客とってる、耳の形もあのばかでっけーピアスもおんなし」
「……適当言ってません?」
「営業の名刺。」

ポケットから丸まった紙をぽいとよこしてきて、たしかにそこには彼女の本名をもじったような源氏名が印刷されていた。

「嘘言ったら針千本ですよ」
「つけといてくれィ」
「いや嘘なんかい」
「信じるか信じないかはお前次第。」

すうっと目を細めた横顔からは本気度がいまいち読み取れない。
とはいえ無碍にもできない情報だ。嘘だったらそれこそ大問題だっていう分別くらいはある。と思いたい。

一人人員宛てます、と意を決して呟くと「そーしな」と素っ気なく返ってくる。

「土方さんは趣味悪ぃよなあ」
「どういう意味ですか」

沖田さんはめんどくなったようで、空のグラスをずずずと押しのけ突っ伏した。
もうここで昼寝を決め込むつもりらしい。
俺は静かでいいものの、静かなだけに副長の趣味の悪さのなかみについてじっくり考える時間をもらってしまうことになった。



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