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木曜日

ようやくやまを越えた。よかった。

折り畳みで小話です。
女子沖。

「たいへん」

俺の左手を握っていた沖田の右手がぱっと離れた。挙動不審なのはいつもだけれどいつも以上におかしかったので俺は「どうした」と尋ねた。

「裏切りやしたね?」

とつぜんだった。
なんのことだ。俺はまったく覚えがない。だから眉間に皺を寄せたのにそれも気に入らないらしい。

「覚えてないことが裏切りなんですよ」
「んっだよそれは」
「むかしむかし。俺がまだ侍だった頃……」
「…………おう」

なんで侍?
この話長いかな、映画の発券機並ぶから急ぐんだけどと俺は思った。

「土方さんとおねーちゃんが幸せになりますように、ってお願いした」
「誰に?」
「あんたに」
「あ、そう」
「ところがどっこい、このざまでさァ!!」
「……。」
「ちょいと土方さん、なんでィそのかわいそうなもんを見るよーな目は」
「なんで江戸弁?」
「てやんでィ」
「サ、サタデー」
「今日はサンデーですぜ土方さん」
「お前なにがしたいの?」

ぱちぱち、と長い睫毛がしぱたいて、「忘れた」と沖田は首を傾げた。
まったくかわいいは正義だよ、と思いながら俺は手を繋ぎ直す。

「あ、おねーちゃんとハコフグのおっさんにお土産で豆大福買ってかえろ」
「まずは映画だ」
「だねえ」

そ、と寄り添うひよこ頭に油断してるとがつんと顎に衝撃があった。
油断するなよと言うことらしい。
しかえしとばかりに俺は、繋いだ手の指を深くした。

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