火曜日 そごたんおめ!!折り畳みで小話です。おしまい。 「総悟」「留守、でさァ」「そーご」「……。」「悪かった」「――さっさと戻ってくだせェ。勤務時間中ですぜ。副長自らサボりとあっちゃあ示しがつきやせん」「お前がそんな仕事熱心だとは思わなかったよ」「俺ァいつでもノリッノリで仕事してやす……」俺の部屋の、まあ総悟の部屋でもあるわけだが屯所の一室で背中を丸めて、けして俺の方を振り向こうとしない。幸か不幸か時間はあって、俺はざっかと畳に腰をおろす。煙草、と無意識に懐を探ってやめた。なんだか集中できなくて。「……ほんとは。」すん、と涙まじりの声がかすれて届く。「ほんとは、わかってたんでさァ。土方さん、俺なんて眼中にないって。あんた、やさしくって線の細いオンナが好きだろィ」「どこ情報だよ」「見てたらわかりやす」「あっそ……」「毎晩毎晩、おなじ布団で寝てんのになにもしねえ。なんでィ。ちんこついてんのかよ土方」はあ、と俺は思わず深く溜息をつく。(わかってねえ)どれだけ俺がたいへんな思いをしていたか、こいつはまったくわかっちゃいない。隙あらば俺を陥れようと悪だくみするのが、俺に構ってほしいからだなんて、布団のなかでしがみついて眠る間際に死ねっていうのがおやすみ代わりだなんて、おはようがわりに揉ませる乳がもっと大きけりゃいいのにって悩んでいるだなんて、(好きにならないはずがない)ぶすぶすと畳を指でなぞりながら、総悟が肩を揺らす。「泣くなよ」と言ったら「嘘泣きでさ」とかわいくないことを言うのがかわいい。俺はたまらず抱きしめる。びくりと硬直した細い肩ごしに、真っ赤になった頬が見えた。「な、」「思い出……作ってくれるんだろ?」「……と。それがなれそめなんでさァ」「へー土方クンってすごいね。なんか。」「すごいもすごい。世の中の大人ってなァあんなこと毎夜毎夜繰り広げてんのかと思ったらすこし尊敬しちまいやした。なんせおもむろにマヨネーズを」「えっ何ちょっ、そのへんもっと詳しく」「こっからは別料金でさァ」「おい」びし、と総悟の頭に手刀を落とせば大袈裟に痛がった。ベンチにだらりと腰かけた万事屋がどろんとした目で見上げてきたのが気に障る。「なんだよ」「別に。鼻の下伸びてんなあって思っただけです」「俺はいつでも男前なんだよ」「自分で言ってらあ」「ほんとにね。引くわー。くそっこいつの富と幸を全人類に等分に配ってしまいたい」「旦那はグローバルだなァ」「でしょ」きゃっきゃとはしゃぐバカどもをいつまでも放置しておくわけにいかず、俺はとうとう総悟の腕を引っ張った。「行くぞ」万事屋がひらひらと手を振るのに、総悟はピースサインで返す。「近藤さんが待ってるっつったろバカ」「あり。もうそんな時間ですっけ」「時間前行動!呉服屋いって着物仕立てるんだからちょっと小奇麗にしねーとだろ。ったくてめーは」「着物なんていいのに」「馬子にも衣装って言うだろが」「ふーん」まあ、お前はどんな格好でもきれいだけどな、と思わず零れたのは本音。「土方さんって」続く言葉はとくになかった。 PR