土曜日 折り畳みで小話です。 「ん」鼻先に漂う甘いにおいに、夢から意識を引き戻される。外は晴れ。ちゅんちゅんと鳥がやかましい、平和な朝。(あれ)しかし感じる胸騒ぎ。(……?)むに、と布団のなかになまあたたかいかたまりがある。むに、むに、と手の位置をずらすたびにその柔らかい感触は俺のてのひらをやさしく押し返した。「!?」一気に目が覚めて俺はかぶってた布団を放り投げた。そこにいたのは、敷布団の上でもぞもぞ身を丸める、白っこい女。「……おはようごぜーやす」「誰だてめえ」「やだなァ土方さん、おれのこと忘れちゃったんですかィつれねーお方だ」「飲み屋の女、とかか」「ぶー。ざんねんはずれでさ」「……」昨夜はふつうに飯食って風呂入って寝たはずだ。酒も飲んでないしここはいつもの屯所の俺の部屋。連れ込むにしたって法度で制限してるし勝手に押しかけられたとしたって一応門に見張りは立ててるし。「どうやって、ここに」「そんなことより土方さん」「そんなことって!」「いつまで乳もんでんですかィ。朝っぱらからはげしいなァ」「っ!!」「さてさて。そろそろ始業時間かな、っと」ひゅっ、と息を飲むより早く、目の前の女は「きゃー」と無表情で声をあげた。なんだなんだ、と遠くからばたばたと野郎どもの足音が近づいてくる。うそだろ、と青ざめる俺を慰めるように、そいつはにっこりほほ笑んだ。「最高の思い出、作ってあげやす。」 PR