日曜日 あたためていた死ネタを小出しに。折り畳みで小話です。がっつり死んでいます。しかも沖田に子供がいますという噴飯タコ殴りストーリー(土沖) 「よお副長サン」振り返ればよく知っただらしない天パが立っていた。なんせ縄張りがかぶっているからこうしてばったり遭遇するのは珍しくない。せいぜい渋面を作ってみたものの、これは一種、ポーズみたいなものだった。若い頃に感じたような、顔をみた瞬間に血が沸騰するような、そんな衝動はもう、ない。なので軽く手を挙げて挨拶を返した。万事屋は片眉をあげてなんともいえないふにゃっとした笑いを浮かべた。「チビ助は元気?」「だれがチビ助だ」「チビ助はチビ助だろ。おい、これ渡しといてくれ。万事屋の優しいおじさんがチビ助のために用意しました、ってちゃんと言い聞かせておけよくれぐれも」「はあ?なに……」押し付けられた紙袋に、両手と視界が塞がる。うっかりたたらを踏みそうになったのは意地で堪えた。「いやほんとなんだこれ」「国産ブランド紙おむつ。めったに特売にならないやつ。ドラッグストアの棚卸バイトしたらもらったからお裾わけ」「そりゃどーも、っててめえはいつになったらモラトリアム卒業するんだ。何があるかわかんねー世の中なんだしふらふらしてねーでいいかげん定職につけ」「何があるかわかんねー世の中だからこそ自由でいたいんですう」それはもっともだ、と思った。けれど口に出すのは癪だったので、「ぬかせ」と笑うだけにした。+++「おかえんなせぇ」ぺたぺたと裸足で駆けよってきた小さいのを「ただいま」と抱きあげれば、ぎゅうと柔らかい腕が巻きついて甘えてきた。「いい子にしてたか?」尋ねれば、頭のすぐそばで『そりゃもう』と声がした。ふわふわと、床から3センチほど体を浮かせて、総悟が得意げな顔をした。墓場にいたり実家にいたりと神出鬼没だが、今日はこっちにいるらしい。『土方さんがふらふら遊び回ってるもんだから、屯所の留守はこいつが立派に守ってたんでさァ』「誰が遊び回ってんだアホ。ちょっと役所に急ぎの文書届けに行ってたんだっつーの」『どうだかなー。』「ひじかたさー、ごはんー」「すこし待ちなさい。あと少しでひるごはんの時間ですからね。」「ごはん……」「ごはんまで、ひじかたさんが、絵本を読んであげます。」泣きそうになって、それから「うん。」と頷いてそしてむずむずと笑った。かわいいとてもかわいい。「えほん、えらびます」またぴょこぴょこいってしまった丸いちいさい後ろ頭を見送れば、『鼻の下伸びてやすぜ、ひじかたさー。』とからかうような声が響く。『甘やかしてやすねえ』「どこがだ。厳しく育ててるだろ」『俺のことはひっぱたいたり首根っこ引き摺ったり無視したりしたくせに!ひでえお人だ!ひいきだ!さべつだ!しんでやる!』「……もう死んでんだろーが」『あっそうでした。』てへ、と舌を出す総悟はやっぱりちょっと透けていた。屯所に赤ん坊がやってきたのは総悟の葬式が終わって数日後だった。「あのひとの子供です」と青い顔をした女が置いていった、総悟に、そしてミツバによく似た小さい小さい赤ん坊。近藤さんは難色を示したけれど、結局俺が強引に押し切る形で、こうして屯所で育てている。『ありがたいと、思ってんですよ。俺はこのとおり、だっこもできねえし、一緒に飯くうこともはもちろん、会話することもできねーから』「だったらもっと感謝しろよ」『してやすしてやす。すげー感謝してやすぜ!』「お前な」『ほんとですって。まじリスペクト。やさしい。かっこつけ。あいしてる』「ばか」屯所の奥から、ぎゃあああんという泣き声とどっと笑い声がした。「よしよしちび隊長怪我はないですか」「これ副長にばれたらやべーんじゃ」「この湯のみ高かったらしいからな」とか随分おもしろいことが聞こえてくる。またなにか、あのちびがやらかしたらしい。だいたいわかったけど。『あーらら。』「……。」『時には厳しく叱ることも必要ですぜ』「てめーが言うかこのくそがき」睨みつけてやれば、えへらと笑った。なんとも憎たらしい笑い顔だった。 PR