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木曜日

きょうあのシールに気付きましたviviさんありがとうございました!!(唐突)


そごっぷちでやる気を出した私である。
折り畳みで小話です。



「新入隊士だァ?」

聞いてねーぞという苛立ちを前面に押し出してそう言うと、山崎が「言いましたよね」という表情ではい、と頷いた。舌打ちをするも、山崎はうすら笑ったままだ。

「今ちょうど、局長と伊東さんが飯に連れ出してます」
「は?あの二人がわざわざ揃ってか?」
「だって初日ですよ?右も左もわからない新人をひとりほっぽりだすだなんて、ちょっとひどいじゃないですか」

大袈裟に首を左右に振ってそういう山崎は、やはりまだ笑っている。気味が悪い。

「おいなんか面倒事じゃねーだろうな」
「と、言いますと」
「幕臣のバカ息子だとか、豪商のバカ息子だとか、そういう腐った紐つきの人事かって聞いてんだ」
「いやいやいや、身よりはいないそうですし、あの子はそういうんじゃないと思いますよ」
「あのこ、って。なんだ若いのか」
「十八だそうです。いいなーぴちぴちだなー」
「若いのはいいがバカは困んだよバカは。ったく、近藤さんは人がいいからな、うまいこと言って騙されて、」

と。ここで俺は口をつぐんだ。
頬のすぐ横を、切っ先がかすっていったからだ。

かつん。びよん。と柱に刺さった刀がたわんだ。
振り返る間際、ちっ、という舌打ちがたしかに聞こえた。

「すいまっせえ~~~ん。手が滑っちやいやしたあ」

にこりともせずにそうのたまったのは、まるで作りもののような女だった。
金の髪に白い肌。赤い唇。
そのくせぞっとするような暗い目が、射殺さんばかりにぎらぎらしてるのが不釣り合いで、全体からその蒼だけが浮いていた。

まったくきみはそそっかしいなあ、そこがチャームポイントかもしれんな、とうちの呑気な幹部二人が笑う。
女は一転、ただの女のような柔和な笑みを浮かべて、こてりと首を傾げた。

「てめえ、」
「おいトシ。なに出会いがしらに熱くなってる。誰でも失敗はある、しかも新人だ。俺の顔に免じて許してやってくれ」
「犬ころじゃあるまいしそうやって相手も見ずに感情の赴くまま威圧するのはよろしくないよ。悪い癖だ」
「お二人とも、よしてくだせェ悪いのは俺です。憧れの真選組に入隊できたってことで浮き足立ってしまって、お恥ずかしい限りです……ほんとうに、ほんとうに申し訳ありやせん!こんなしょっぱなから鬼の副長さんの逆鱗に触れているようじゃ隊長として失格ですよね」
「いやいや、なにいってんの!失格だなんてそう卑下することないよ免許皆伝の実力者があ!さあ笑って笑ってースマイルスマイル!」
「委縮しないでくれたまえ沖田くん。君のような逸材がうちにきてくれてこちらこそ僥倖なのだから」
「近藤さん……伊東せんせえ!」
「おっと。ようやく笑ってくれたね」
「やっぱり女の子は笑顔のほうがいい!」

大団円。となりそうなところだった。俺はようやく、「で、誰だよ」と質問を挟むことを思い出した。引き攣るこめかみを押さえながら。


女は優雅に礼をした。
そして俺の横をまっすぐ通り過ぎ、柱に刺さった刀を回収し、慣れたように薙がせて。

「一番隊隊長。沖田総悟です」

そう名乗った。



***



「いやあかっわいかったなあまるで妖精さんみたいでしたね~」
「どこが。泣かしてやりてーわあんな憎たらしい女」
「憎たらしい?……や、でもわかりますわかりますよ、ああいう子が泣いて縋ってくれたらきゅんってしちゃいますよね。あっと副長、手ぇ出したらやば、」
「そういう意味じゃねーよ」

すっぱんと殴って会話は終わらせた。
山崎は「俺らが黙ってませんからね!」と捨て台詞を吐いて早足で逃げてった。

「……誰が」

(だけどあの目は思わず見とれた)

誰が手ぇ出すかあんなおっかねえ女!



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