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水曜日

総子と退のセンチメンタルな友情物語だったら食えるな。と思った。

折り畳みで小話です。女体。

化粧の仕方を教えた。
器用なひとだというのは知っていたけれど、案の定沖田さんは俺の説明もそこそこに手際良く、ちょいちょいと粉をはたくと余所行きの顔をつくれるようになってしまった。

「・・・慣れたもんですね」

やったことありましたっけ、と素直な疑問が思わず口をつく。

「まさか。お前じゃあるまいし」
「女装趣味があるみたいに言わんでくださいよ」
「趣味じゃなくなっちまったなあ」

無造作にシャツを脱いで沖田さんは、仕事着だといういかがわしい雰囲気のセーラー服に手を伸ばす。
いくらかぶき町が歓楽街だといいましてもそれで職場まで行くのはよろしくないんじゃないんですかと早口で、それでいてやんわり咎めると、「ほかに着るもんがない」という。

「ミニ丈の着物あったじゃないですか」
「そのへんに吊るしてたらなくなってた。誰か着てんじゃねーの」
「えー」
「仕方ねーじゃんアレ共用だし」

そうなのだ。監察で変装用として揃えていた衣装の類は一着一枚一足残らず出払っていた。
不幸な事故のはずなのに、どうしてこんなに屯所に漂う雰囲気はふわふわしてるのか。悲壮感はまるでない。
着ていたものが全然体型に合わなくなってしまったのでと、緊急措置として解放された衣装保管庫。
元・男性となったうちの連中はノリノリどころじゃなくノリノリノリノリで、今までろくに手を触れたこともなかったレースだのワンピースだの淡い色の着物だのにきゃあきゃあいって喜んだ。
足りなかった分はわざわざ自腹を切って買い込み、色違いだお揃いだと貸し借りをし、似合う似合わないとお互いの姿を飾り立てて女を楽しんでいる。
仕事は一時休業。しかし財政難なので公然の秘密で副業。しかも上層部推奨。どうなってんのうち。

はあ、とためいきをこぼす俺を一瞥し、沖田さんはざっくり髪を結いあげると勢いよく立ちあがった。
ちょうど午後十時をお知らせして、ポッポーと鳩が鳴く。

「じゃー初出勤いってくらあ」
「ほんとに行っちゃうんですか」
「はあ?なんだよ。いっつもみたいに、サボらないでくださいよーとか言わないの?」
「だって」
「大丈夫だって。なんでもできちゃう沖田様は相手がなんであろうと負けないから。知ってんだろ」

はい知ってます。戦場のあんただったら知ってます。
でもあんた触られたりお酌したりとか全然好きじゃないじゃないですかそういうところ全然変わってないじゃないですか。

困ったな、と思っているうちに沖田さんは、ひらひら手を振って出掛けてしまった。
セーラー服の裾をなびかせて、夜の街に。

せめて帰ってくるまで待っていよう。
化粧の落とし方を教えてなかったから、ちゃんと待っていないとかわいそうだ。一人で夜道を歩いてあかりの消えた屯所に帰ってくるなんてかわいそうだ。お腹をすかしていたならお茶漬けくらい出してあげよう。衣装も手入れしてあげなければ。疲れたときにいつもするみたいに、髪を梳かして話を聞いてあげなければ。

ふと、自分の思考にぎょっとした。
これが母性かもしれない。俺もじゅうぶんやられているらしい。
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