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木曜日

雪国に出張してました。
ら、ちょうど入れちがいで東京(関東地方全域か)が記録的な大雪だったようで・・・
戻るころにはすっかり消えてるかな~という予想に反して、結構あちこち融け残ってました。積雪30センチというのもまんざら過剰じゃなかったのかしら。
地元青森で飽きるほど触れ合った雪ですが、東京の地でこれだけぐずぐずの路面を目にするというのは新鮮です。発言に気をつけないと北国の人間風を吹かせおって、と吊るしあげをくらうので「いや~ん転んじゃう~」とせいぜい都会人ぶっておきます。


ユリイ●でBL特集だったので買ってみた。
まだ途中だけどこれはかなり興味深い・・・


折り畳みで小話です。プランツドールパロです。
ガラスの天井はひたすら高くてどこからが空の始まりか、見上げただけではわからない。
華奢なテーブルには椅子が二脚。それを飾り立てるためにいるかのような美しい二人の横顔が、同時にこちらを向いた。

「はじめまして。あなたが土方十四郎さんね」

その二人の顔立ちはとてもよく似ている。口を開いた、短い髪の方が姉だ。名はミツバという。
朗らかに笑うミツバとは対照的に、もう一方の長い髪はこちらを凝視したまま、眉ひとつ動かさない。
「どうも」俺は軽く礼をして、案内が見当たらなかったために庭に勝手に侵入したことを詫びる。

「迎えを出せばよかったですわね、ごめんなさい。ほら、そーちゃん。こちらが今日からお世話になる家庭教師の先生よ」

彼女が促すと、スイッチが入ったかのようにもう一人に表情が灯る。長い髪がするりと揺れた。

「遠いところをようこそ、土方せんせい。はじめまして。」
「・・・こんにちは」





「驚いたでしょう」

長い髪を掻きあげながら「彼」がいう。豊かな長い髪、薄い色のワンピースを纏っている彼は、ミツバの弟だ。
ミツバとその弟総悟と俺は幼馴染だった。
幼い頃こそ、ほかの仲間も交えて一緒くたに遊びまわっていたけれど、ここ数年はせいぜい葉書を交わす程度の付き合いで、そろそろ誰もが、それぞれの場所でそれぞれの人生を始めようとしていたところだった。

「婚約者だった男に騙されやして。少し記憶がとんじまってんですよ。お医者様の話じゃ、なるべく近しい人間と会話をして、適度な運動睡眠食事、健康的な生活をして様子をみましょう、だそうで。・・・まさか引き受けて貰えるとは思ってやせんでしたが、お忙しいところお呼び立てしちまってすいやせんね。ああ、こういう事情なんで、俺の家庭教師ってのはあくまで名目上のことです。決められた拘束時間以外はお好きにどうぞ。」

一息にそう告げると総悟は足元に纏わりつく布を器用に始末しながら踵を返し、さっさと扉へ向かう。

「総悟」
「・・・なにか」
「いや、お前。その格好は」
「『私には弟なんていないわ』だそうで。今は妹ってことになってやす」





慰めることも責めることも違う気がした。
迷っているうちに一週間経って、半月が経って、そろそろ一月という頃にはすっかり適応してしまった。

時々ぼうっとすることと、総悟のことを妹と思いこんでいること、そしてここ最近より前の記憶が空白になっていること以外は至って普通で、庭木の世話をしたり、手料理をふるまってくれたりした。味付けが辛いのは昔からだったので、それが妙に懐かしかった。
ただし総悟の奇妙ないでたちには、やめろと強く言えないだけに扱いに困った。似合わないわけではないのがまた、腹立たしかった。





久しぶりに街まで買い物に出たいと言ったのはミツバだった。
この間までは家の周りを歩くのすら怖がっていたらしいので、手放しで賛成した。見れば、総悟も満面の笑みを湛えて頷いていた。
運転手を仰せつかった俺は、標識を頼りに車を走らせる。
ようやく市街地に到着した頃には、少し日が傾いていた。車に酔わなかったかと気遣う総悟に答えるより早く、ミツバは車を降りた。

「こっちよ」

知らないはずの街の補足入り組んだ路地を、まるで迷いなくミツバは進む。
辿りついた先は、おかしな店だった。
所狭しと並べられた骨董品、人形、人形、人形。なんて精巧な。
どこかで耳にしたことはあった。これは、観用少女―――プランツ・ドールと呼ばれる生きた人形。

俺が驚いたのは、そこにいる一体が、総悟に生き映しだったからだ。
偶然という言葉で片付けるにはあまりに大雑把だったし、正直いって気味が悪い。
青い顔をして黙りこむ総悟もきっと、同じことを思っている。たまりかねて店主に詰め寄ると、「お客様によって、プランツの表情の捉え方が違うということなんですかねえ」とのらりくらりと返される。

「表情とかそういう次元じゃないだろうが。この人形を作った輩が、勝手に総悟・・・、こいつをモデルにしたんだろう」
「おそれいりますが、私にはそれほど似ているようには・・・たしかに、お顔立ちの雰囲気はどことなく、とは思いますが」
「ふざけるな、他人事だと思って適当なこと言いやがって。」
「店長さん、この子を連れて帰りますわ」

俺が言葉をなくしたことで、店内は全くの沈黙に満たされる。
それを破ったのは、底抜けに明るいミツバの声だった。

「この子、そーちゃんにそっくりだもの。きっと仲良くなれるわ」
「さすがお客様お目が高い。そのプランツは名人の中の名人が奇跡と評した程の出来栄えなんでございますよ・・・」

店主が嬉々として算盤を弾いた。書面に示された法外な数字に、ミツバは憶すこともなくきれいな文字でサインを滑らした。

「いいのか、総悟」
「・・・来世分まで慰謝料貰ったそうなんで心配ありやせんよ」

そういうことじゃねえよ、と俺は言った。
聞こえたかどうかはわからなかった。
総悟はただ、嬉しそうなミツバを見据えていた。自分そっくりなプランツ・ドールを抱きしめるミツバの姿を。

「これからはいつも一緒よ、そーちゃん」





プランツの髪を結ってあげることに一生懸命なミツバに挨拶をしたが、とくに引き止められることもなかった。
お気をつけて、という言葉は優しかったけれど。

「プランツってやつは、ミルクと砂糖しか口に出来ねえんですって」

長かった頃の癖なのか、髪を耳にかける仕草をする途中で「あ、違った」と呟く。
ふうふうと麺を啜って、叉焼をスープに沈めてからしばらくあと、れんげを掬わせる。
叉焼は少しぬくめてから楽しみに食べるんだそうだ。

「姉ちゃんの手料理旨いのに。かわいそうだなァ、あいつ。まあ、お子様にはちょっと辛味が強すぎるかもしれねーが」
「俺だって最初、あの一味唐辛子の量には閉口したぞ。大人だ子供だは関係ねえだろ。相性だ」
「そうかもしれやせんね」

てかマヨラーに言われたくねーんですけど。そういって笑う総悟は、昔の悪戯好きの餓鬼の顔に戻っていた。

俺はお払い箱になった。
ミツバの記憶は依然として戻らないが、医者のいう「様子見」をした結果、俺の存在があってもなくても状態はなにも変わらないと判断されたからだった。
弟と認識されていない総悟もまた同じであると、言葉を濁しながら医者は言っていた。

俺のどんぶりの中で、だんだん伸びてきた麺が膨らんでいく。

「姉ちゃん、あのプランツのことすっごく可愛がってんです」

俺はふうん、とだけ返事をした。

「愛情、ての?俺がいうとかゆいですが、愛情注いでるっての感じんですよ。最初は面白くなかったけど、ああ、姉ちゃんはきっと、俺の顔形をどっか深いところで覚えてくれてんだって。ちょっとこんがらがってるだけで、俺のこと大好きなんですよ。だから、いいやって思う」
「お前無理してねえか、総悟」
「ちょっとくらいは無理してもいい。俺は姉ちゃんのこと好きだし」

最後の食事は20分もかからなかった。
総悟がラーメンがいいというから仕方なかったのだけれど。

「それじゃあ、どうぞお元気で」
「ああ。お前も元気でな。なんなら次はほんとに家庭教師で呼べよ」
「・・・考えときやす」
「そのときははじめましてなんて言うなよ、俺のこと忘れるな。ちゃんと覚えてろ」

土方さんも、と言って総悟は俯いた。
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