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日曜日

恐怖・蝉の館!!
というくらいに今日は一日蝉に縁がありました。
まずベランダに、天寿を全うした蝉さんが転がってましてね・・・キミが八日間頑張ったのはわかったけどヨソ行ってよぉ!!と思いながらのけました。
そして顔洗って冷蔵庫からお茶出して戻ってきたら網戸に蝉さん(NEW!!)が止まってました。うちはそういうのやってないのよ、と呟きながら雑誌でバタバタ風を送ったら逃げて行きました。網戸に心底感謝。
更に数時間後、買い物行こうと建物を一歩出たら木陰からビイイイイと蝉さん(リターンズ)が飛び出してきました。いきなり頭に突っ込んできたから往来で「ヒエエ」と奇声を上げながらステップ踏んだよ通行人の視線が痛かった。

好かれてるんだな、とポジテブに解釈したいです。
折り畳みで小話です。

沖田君は年長の部下の任務を無理やりぶんどって、潜入捜査中なのだと言う。ないしょですよ、と付け加えて言う。ないしょなら言わないで欲しいんだよね、とどんよりと返事をしたけど、いまいち手ごたえがないので俺の心労はこれからも理解されないっぽい。

世間話を二、三交わすのは仕方ないとしよう。
しかしファーストキスの感想なんていう奥歯の付け根がむずがゆくなるようなもんをテーマにする羽目になったのなぜか。それは世間話の範疇じゃないでしょう。ねえ。
俺が悪いんじゃない。ここがおっぱいパブで、俺も沖田君も素面でしかも客じゃないというシチュエーションがそうさせた。

当然だが俺にも沖田君にも乳がないことだし、だからといってまさか、かわりといってはなんですがと局部の比較検討をするにも至らない。十代相手に鼻息荒く勝負を挑む三十路は悲しい。たとえそこが銭湯だの更衣室であっても痛々しい。
というわけで、性的な会話を回避しようとした故のギリギリの悪あがき?そのへんが近い。

「うえってなりやした」

意外にも経験があるという沖田君が、誇らしげにでも恥じらうでもなく淡々とそう語る。

「ひどくない?ナイよさすがにナイ、それは相手傷つくね」
「でもほんと、わざとじゃなくうえってなりやすもん。相手いわく、俺の情緒がちゃんと発達してないせいだと。普通はいいものなんだそうです。まあ一般的にはそうでしょうねェ」
へええ、と適当に返事をしていたら「旦那は?」と小首を傾げた沖田君に追及された。

「俺は十二くらいの歳だったかねえ。寺子屋で三番目くらいにかわいかった子と伝説の木の下で」
「旦那の若い頃って想像つきやせん」
「ハーイどっと老けこむワードいただきましたーっておいキミねえ、マジで落ちるからやめて!もう若いつもりもないけど十代がそこまで大昔ってわけでもないんだから!」
「すいやせん気をつけやす。で、どうでした。どういうきっかけで、どんな感じで、どんなこと喋ってたんですかィ」
「えー覚えてない」
「昔のことすぎて?」
「いやそうじゃなく、場所と相手くらいは覚えてるけどさ。あとはそんなに大事なことでもないから記憶が薄いっつーか」
「へえ」
「沖田君は、どうやって」

その先は、サービスタイムの開始時刻を知らせるやたらめったら大音量の音楽と歓声に掻き消されて、うやむやになった。
ピンクとゴールドのライトがぐるぐる回る空間で、フロアの中央で絡みあう男女を物陰から見つめる簡単なお仕事。
沖田君は一度だけ「お盛んだなあ」と発言した以外はおとなしいもんで、ああたしかに十代の感性としてはいかがなもんでしょ、と俺はしみじみ心配になったのだった。


◆◆◆

「旦那ァ」
「あらソウサブロウ君じゃん。おっぱぶ以来だねえ」
「ご無沙汰してやした」

ちょっと謹慎で今朝まで軟禁されてやした。とさらっと言う。

「あんまり旦那にペラペラ喋んなって怒られやしたァ」
「そりゃそうだよウン部外者だしね俺。潜入捜査とかナントカとかたとえ現場で会ってもお互い知らない振りすんのがマナーでしょ。鉄則でしょ。そこ是非改善して?」
「わかりやした」
「返事はお利口なんだけどね・・・キミもうちの眼鏡みたいに、やれば出来る子だといいんだけど」
「ちゃんとニッシンゲッポで成長してんでそこんとこは心配ご無用でさァ。もう、うえってなんなくなったし」
「あ?なにキスの話?」

こくん、と頷く。「旦那にも言われたし、あれから毎晩練習したんですぜ」
おいおい羨ましい話ですねえイケメン高給取りだけあって不自由してないんですかコノヤロー、と突っ込もうとしてやめる。
なんだかもやもやーっとした疑問が形を作ろうとしてまた霧散する。よしこれは謎を解明しなくていいパターン。ひとり納得する。

そうこうしているうちに沖田君は、お目付役が乗ったパトカーに詰め込まれて行ってしまった。
今日もお江戸は日本晴れだ。
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