金曜日 うどん食べるって言ったじゃないですかァー!と実況しながら夕飯はチャーハンでした。玉子もねえのにナガタニエンの素は優秀だからおいしかったです。折り畳みで小話です。小話書くの久々過ぎてウヒョーってなった。昨日のはアレ忘れてくだされ。 雪のちらつく灰色の街で、沖田さんに会った。顔を見るのは二年ぶりだった。暖かい色のコートの袖にうっすら雪を纏っていた。眼鏡をかけた年上らしい男性が、左隣で大きな傘をさしていた。買い物袋をぶら下げたまま立ち尽くす俺を一瞬訝しんだあと彼は、敵ではないと判断したのか、柔和な表情でそっと沖田さんに耳打ちする。「知り合いかな?」「前の職場のひと」「ああ、もしかして例の…」「そうそう」二人で顔を見合わせて笑った後に、沖田さんは俺の肩を強かにはたいた。「ひっさしぶりだなあ山崎」寒さのせいか、鼻の先が赤かった。ろくに化粧もしていないし、がさつな仕草は子供みたいで。それでもやっぱり見蕩れた。重々承知していたつもりだが、この人はとんでもなく美人なのだ。「僕はちょっと時計をみたいから」そういって眼鏡の男性は席を外した。三十分したら車に戻ってる、と付け加えて。沖田さんが軽く頷く。どうやら俺は、コーヒー一杯1,600円のカフェに人妻と二人きりで談笑するお許しを得たらしい。店員が運んできたココアから甘い匂いがした。沖田さんは暖を取るように、両手でカップを包みこむ。昔よく見た仕草だった。「山崎は買い物帰り?なんだか元気そうでよかった」「はい」「そういやミントンは飽きたんだってなァ。最近運動してんの?体なまらねえ?甘いもんばっか食ってたら旦那みたいに糖尿なんじゃねえの」「それなりに訓練はしてますから」「あ、彼女できたんだって?順調?」「余計なお世話ですよ」カップがガシャンと思いの外大きな音を立てた。すみません、と小さく詫びて、作り笑顔を張りつける。「沖田さんは幸せそうですね」意味をはかりかねたらしい沖田さんがふたつ瞬きをする。俺は続けた。「ほんとうに幸せそうだ。副長のことあんなに酷い振り方しておいて、そりゃあないんじゃないですか。あの人はあれからずっと貴方のことを引き摺って独りでいるんですよ」声が震えた。ずっと言いたかったことだった。二年前のことだ。沖田さんは突然やめると言い出したかと思うと、周りになんの説明もなく、その数日後に屯所を出た。足抜けするのは切腹だなんだといううちの規程はとっくに飾りになっていて、実質なんの問題もなく、一人の稼ぎ頭はあっさり職を辞した。副長は捨てられた。それが俺たちの見解だった。皆が副長に同情した。もちろん俺も含めて。二人が恋人同士なのは誰の目にも明らかだったし、示し合わせて二人で外泊なんてしょっちゅうだった。新しい簪、匂い袋、桜色の足袋。大ざっぱで装いに頓着しない沖田さんの身の回りにある女の子らしい小物の類は、すべて副長の見立てによるものだった。お似合いの二人だった。そのうち一緒になるんだろうと、羨みつつも漠然と期待していた。疑わなかったのに。「副長に指輪を投げつけていた」「沖田が新しい男に乗り換えたらしい」事実なのか憶測なのかわからない噂に加えて、「あんな人でなしのガキとすっきり別れられてよかったんじゃないか」そんな慰めを口にする奴までいた。副長のことを抜きにしたって、あまりにも身勝手だろう。仮にもうちの看板、一番隊の隊長だったんだ。嵐のような批難が飛び交う屯所から、沖田さんはそっと旅立っていった。局長だけが見送ったらしいという話だった。生気をなくして、真夜中に沖田さんの部屋の前にぼうっと佇む副長の姿には、憐れとしか言いようがなかった。見ていられなかった。普段は副長に対して死ねだのもげろだの言いたい放題の俺達も、副長のやつれた様子を見れば、さすがにここで優しくしないわけにはいかなかった……「山崎は、土方さんの事好きなんだなあ」「は?」「いいや。みんな好きだろうな、あの人のこと」回想に没頭している俺を引きもどしたのは、沖田さんの穏やかな声色だった。「実は俺、土方さんと恋人だったことなんて一度もないんだ」「…なんてこと言うんですか」遊びだったのかだなんて陳腐な台詞を吐きそうになった俺を遮るように、沖田さんは睫毛を伏せて、軽く結んだ両手をじっと睨むようにして黙りこんだ。ココアの表面に膜が張っていた。とっくに湯気は消えていた。沖田さんはスプーンを手に取って、勢いよくカップの中をざぶざぶ掻きまわすと、くいっと飲みほした。そして、カップを置く。「悪い。もう時間だから行かないと」「逃げるんですか」「だってもう話、済んだし」「待ってくださいよ、まだ話は終わってません。ずるいじゃないですかこんなの」「ずるいって…」「他に男が出来たからってウチ辞めて。自分の気が向いたときだけ連絡して。幸せ呆けですか?迷惑なんですよ局長通じてうちの動向とか探るような真似して。局長はあのとおりだからほいほい情報流してるみたいですけどね、次はもうないですから。金輪際接触してこないでくださいあなたはもう、部外者なんです」言うだけ言って、俺は伝票をひっつかんで席を立った。去り際にみた沖田さんは真っ青な顔をしていた。いい気味だ。せいせいした。少しは傷つけばいいんだせめて副長の半分くらいでも。早足で人波を擦りぬけながら、俺は泣いていた。裏切られたと思った。せめて好きだと、ちゃんと好きだったと言ってほしかった。俺が恋をしていたわけじゃないのにずっと、涙が止まらなかった。 PR