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水曜日

明日は節分か・・・ばくぜんと「海苔巻くいてえな」と思っていたのは擦りこみ効果の甲斐あってのことだったのだな。恵方巻きは食べにくいから買いませんけどね。


折り畳みで小話です。
人差し指に中途半端な反発。今日も昨日と変わりなく、総悟んちのドアホンは壊れて鳴らない。
雨戸は締め切ってある。
俺は裏手にある庭に回って、ひっくり返してある盥を二度叩く。ぐわんぐわんと派手な音がした。

とんとんと総悟が階段を駆け下りてくる足音を確認して、もう一度玄関に戻った。

「げ。土方さん」
「げ、じゃねえよ伝書鳩しにきてやったのに」
「なにかあったの」
「きょうも学校やすみだってよ」
「なんだ。」
「これで一週間連続休校。なにげに初めてだな」

総悟が嫌な顔をしたのも無理はない。
クラスメイトや知人に関する悪い報せを運んでくるのは、かなりの頻度で俺の役目だから。

総悟は元々噂好きでもないし、人づきあいがいいほうでもなかったから、放っておくと情報からどんどん取り残さ
れてしまう。担任がよその国に移住するって話だって、俺が教えなければそれこそ年単位で知らないままじゃないだろうか、と思う。

別に放っておいても誰に責められるわけでもないのだが(それこそ総悟にだって!)俺が悲しくなるので、なんとなくこうして通っている。

俺の家は、ここから自転車で十五分程の距離だ。
空き家ばかりが目立つことだし、いっそ勝手にどこか適当な家を見繕って、住んでしまってもいいんじゃないかと冗談交じりに話すことはある。「うちの両隣もそのお隣も、もう数カ月前に出てったし。」
それもいいな、と俺はこたえる。だけど実行はしない。総悟も、俺が実際に越してくるとは思っていないだろう。
まだ俺たちは、これが非常事態だと信じ切れていない。



去年までは顔を合わせれば殴り合いの喧嘩をするくらい、俺と総悟の仲は険悪だった。
総悟が突っ掛かってくるのが悪い、と切り捨てるには歯切れが悪い。やられたらやりかえしていた。青あざだの擦り傷だの、数え切れないほどこしらえた。何度か呼び出しをくらっては、うんざりした様子で説教をされた。それも今となっては懐かしい。



明確に、あの日を境に変わったということはない。
ほんとうは徐々に変わっていたけれど、それを認めたのがあの日だったというだけだ。

総悟には俺しかいなかったし、俺には総悟しか残っていなかった。
総悟が伝書鳩になったのは、こいつの姉ちゃんが倒れたあの一回きりだ。




ほとんど使われていなさそうな台所を通って、総悟の自室に通される。

総悟に勧められるまでもなく、床に腰を下ろす。総悟はベッドに横たわった。
ベッドの上がやけにすっきり片付いているのに気付いて、ふとぐるりと見まわすと、窓の外に毛布がはためいているのが見えた。とっくに起きていたらしい。

「学校やすみだとすることねーですね」
「オセロか将棋でもするか」
「もう飽きたでしょ」
「だな」
「歌でも歌いますか」
「まじで。」
「さんはい!」
「ちょおちょお、ハモれとかいうなよ頼むから」
「    」

よりによって総悟が選んだのは校歌だった。
思わず噴きだして、笑かすなって小突いて、総悟と目があって、たまらなくなった。
もしかしたら、なんて考えたくないけれど。


総悟の掠れた声はむやみに明るくてせつない。
もうすぐ三月がくる。
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