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月曜日

帰省中の思い出②
毛玉フリースと長靴姿で徒歩一分の風呂屋からもどってきたら幼馴染からメールが届いていて「あけおめ。風呂帰り?笑」
風呂屋の客から客へと噂が伝達されたか、あるいは通り過ぎた車に顔見知りが乗っていたか、どっちかです。
ちょっとしたホラーだと思いました。


折り畳みで小話です。
きれいどころがいたほうがいいって上から強くいわれて断れなくて、一度だけなら、って制限付きでもこいつをほいほいと、こんな場に連れだしたのがいけなかった。
飲みの席では無礼講。
それを悪しき慣習と断罪するできるほど俺とて青くない。しかしあまりに遠慮がなさすぎるんじゃないか、えげつない手つきしやがって。俺だってまだ、いやなんでもない。

まさか本気でこいつの貞操について頭を悩ませる日がくるとは思わなかった。そういうのから遠いところにいるっていつまでも決め付けていたかったのに。
まだガキんちょなんですすみませんね、と誤魔化してそのガキの手からとっくりと一升瓶を引き剥がして、ようやく到着したタクシーに押し込んだ。

運転手に多めに紙幣を握らせて、この幼顔の酔っ払いを必ず中の人間に引き渡してくれ、と念押ししてから戻りたくもない席に戻れば、待ち受けていたのは退場した華の噂話。妄想まじり、いや純粋培養、妄想ばかりの。
土下座したらやらせてくれそうって評判。



お勝手から帰るのは久しぶりだった。
別に悪さをしたわけでもないのに、立てつけの悪い扉がギイと鳴るたび背が冷える。
(やらせてくれそうとか)
これは死んでもあいつの耳にはいれまい。という俺の深刻な決意をよそに、当の総悟はなんとものんきそうに台所でほてった顔を突っ伏して、むにゃむにゃ寝言をいっている。
テーブルの上のコップには透明な、水かと思えば酒が揺れている。ばか。

「飲み直すなよ、ってか布団で寝ろよ・・・・・・」

ぼやきつつもほっとした。
あの愛想のない運転手、玄関先に放り投げていっちまうんじゃってちょっとばかし疑ってたから。心の中で詫びる。

普段ならこのまま蹴飛ばしておいてもいいが、今日ばかりは負い目がある。ここでまた酒をあおっている理由を思っては望まれない同情を、してしまう。
ん、と身をよじったのを合図に俺は、とっくに気崩れた外套の、両脇に手を差し入れて体を抱き上げた。ぬくい。

「・・・・・・じかたさん」
「っと、起こしたか?」
「ねえ土方さん。俺ってかんたん?」

うるうるすんじゃねえよなにそのめ。
瞬間ぐっと言葉に詰まってなにを訊かれたのかもういっかい考えて、思い当たる。

「なんのこと。」
「・・・・・・外套、忘れて・・・戻ったんでさァ。俺の名前連呼されてっから、つい聞き耳を」

ぴと、と胸元にくっつけられた頭に隙間風がそよいで、俺の首筋を髪の毛がさわる。
へんな、気になる。おかしい俺は一滴も飲んでいないのに、ああわかったこいつのせいだ、こいつが、奈良漬みたく匂うから!理性理性理性。

「気にすんなよ」

ばからしい、と笑い飛ばせばよかったのにしんみり髪なんて撫でてしまったのは雰囲気のせいだ。声が掠れるのも、動悸も、息切れも。
総悟もいつになくしおらしく、ふるふると頭を揺らして否定する。否定した?

「ほんとですもん」
「は?」
「土下座までしなくとも。かんたんに股ァ開きやすよ」
「誰にでも?」
「まあ」
「総悟くんお兄さんねそういうのいけないと思うんだ」
「・・・・・・じゃァ抽選で」
「いやいや先着一名ってのはどうだ」
「専属かァ」
「そのほうが後々揉めなくていい」
「じゃあそうする」

ようやく笑ってくれた。
でもたぶんわかってない、目尻にきらきら涙を光らせて、アルコールに意識を預けてる。

「なあ。布団がいいか?」
「なんでィ土下座してくれんの・・・・・・」

なんつて、と付け加えて冗談にした総悟のひとりごともはや冗談ではない。
今度はこっちが笑ってみる。誤魔化して。
総悟はつられてふわふわ笑って、自分が誰の部屋に連行されようとしているのかも、わかっていない様子。

朝起きて罵られたらむしろご褒美。
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