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日曜日2

あーなんであのときあんなこと言っちゃったかなーとかそんなに怒るとこじゃなかったじゃんねーなにがそんなに頭にきたんだか私はとか謝ってすっきりしたいなーとかあわよくばあの記憶いじって忘れさせてーわとか悶々としているのも多分お腹がすいているからです


折り畳みで小話です。
「猫がほしいとか花を飾ろうとかカーテンを変えたいとか言わなくなった」

「よな?」と横顔に話しかければ、そうでしたっけとテレビの画面をむいたまま、総悟はとぼけた。
ソファの上で隣り合っているのに、15センチの隙間が埋まらない。なんだかこの頃ずっとそう。

「心境の変化?」
「というほど大層なものでも」
「なんかあったの」
「なにもなかったですよ」

脚を組みかえるふりしてつめた5センチを、総悟がどう思ったか、表情からは読み取れない。
蛍光灯で掻き消してしまうのがもったいないような夕暮れが部屋に流れ込んでいて、春に選んで吊るしたままのカーテンに一瞬目をやって、もう少し放っておこうと決めた。

「もう暗いですね」

今日はじめて、視線が合ったと思ったら。
器用なことで総悟は、ろくに見もしないでローテーブルの上のリモコンを探し当てて、テレビの電源を消した。

「そうかな」

今気付いたふりをした。しらじらしくなかっただろうか、とほんの少し、頬が熱くなった。
総悟がパーカーのフードをいじりながら、なんでもないように言う。

「外、すっかり日が落ちてるし」
「秋だからだよ」
「そろそろ帰んないと」
「ああそう」

雑音が消えた部屋は会話するのがむずかしい。
二人きりならなおさら。沈黙がもこもこと進路を塞いで、動くなと命令する。そんな気がする。

「お邪魔しました」俺のもやついた気持ちなんてお構いなしに、総悟の足音はぺたぺたと、狭い廊下を一直線に辿って玄関に向かう。
俺は照明のスイッチを指先で押し損ねて、すぐに諦めて慌てて霞むオレンジを深くした背中を追った。

「総悟。なあ、お前。・・・・・・忘れ物」
「え?」
「ぎゅっ、て。」

させろ?したい。しようか?
しどろもどろだ。なんて繋ぐのがいいかわからなくって、そこで言葉が止まってしまった。
間抜けにも両手は、中途半端に広げたまま。

総悟の動きが止まる。

ただでさえ俺より背の低い総悟が、段差のせいでさらに見上げるような形になっている。
まばたきするたびに、ゆらゆらと夕暮れがうつるのがきれいで見蕩れた。

「土方さん」
「・・・・・・。」
「土方さん。ねえ」
「ああ、悪い」

いつもこうだ。目を見ると意識を外側に奪われて、話もろくにできない。

「ぎゅっ、てしていいの」
「それでもいい」
「じゃあ、ぎゅっとしてくれるってことなの」
「どっちでもいいんだって」

煮え切らねえの、と明るい声で言った総悟の、目元が滲んで光った。
驚いて、手を伸ばそうとしたらぼろぼろと涙の粒がこぼれて、そのたびにきらきら光って、俺は。

「それ、忘れたままにしていいですか?」総悟が震える声で言った。「どうして」
俺は頷きもせずに先を促す。

「それ取りに。また、次、ここに来てもいい?」

フードをかぶった頭を俯かせて、もう終わりなんだと思ってた、と呟いた。
俺は。

こいつの靴なんて捨ててしまおうかって、わりと真剣に考えた。

とりあえず今夜はもう一度、はじめから。
なんでもしたいことを聞かせてもらうんだって決めた。
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