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金曜日

おかげさまでおらほの町にも12月4日に新幹線がやってくるわけです。
そんな我が町では広報にて「線路に新幹線が走ってったら、農作業してても一旦顔をあげて大きく手を振れ」だの「見ず知らずの人に道を聞かれたら忙しいからといって無下にせず快く教えてあげなさい」だのウェルカムキャンペーンの心構えを周知中だそうです。なんと。
後者はともかく前者は無理だろ無理無理。よしとけよはるばるやってくる旅人たちもこんな東北の片田舎にそういうの期待してねえって。そういうのは西の人間がやってくれるって。笑ってコラ○てを見るたびにメンタルのつくりが違うことを苦々しく噛みしめているというのに。


ちょっと身内や地元の話が続いているのでこことばかりに(ついでに)アピールしてみますが、私のイトコがね、トシっていうんですよ。
しかもそのお方、親戚のオバチャンが困っているのを見かねて車で迎えにきてくれて、ええ~ありがとうトシィ!て一同歓喜しているところ、「俺はただ、駅の立ち蕎麦を食いたかっただけだ
おいおいおいかっこいいねー!!もうカッコイイ副長DE賞、とかを投げつけたいかっこよさ。
うっかり本屋で購入した山崎アンソロが土山ばっかりでも怒らないもん。トシの野郎しっかりしろよ、とか言わないもん。(おっと同じ段落にあるからといって文章に脈絡があると思ったら大間違いだ)


折り畳みで小話です。注意。

「こっちに帰って来てよかったです」
電話の向こうでまだはたちにもならない弟は、老人のようにくりかえす。
いつもそう。「落ち着くし。水も、外の空気もおいしいし。喉の調子がずいぶんよくなりました」
とろんと溶かしたガラスのように、透き通った声が、電波に揺られて少しにじむ。
それでもたしかに、前ほどひどい状態ではないみたい。
だって、怒鳴る相手もいないもの。


私は、だけどやっぱりさみしいわ、といっていいものか迷って結局、「次のお休みはそうちゃんの顔を見に戻れそうよ」とだけいった。


ほんとうは私も、一緒についていてあげようとした。
近藤さんも、松平様もそうおっしゃってくださった。「うちにとってはずいぶん痛手になるけれど、総悟のためにもそれがいいよ」その言葉に押されて、決めていた。そうするつもりだった。だってたったひとりの弟だもの。




「迷惑です」
悲しそうな顔をした弟は、私を歓迎してはくれなかった。お願いだから、江戸に戻ってくれと。私を説得し始めた。
「近藤さんにも組にも迷惑がかかる」「部下だっているんでしょう。病気持ちったって、寝たきりじゃあるまいに自分の面倒くらいみれますから」
「それに、
姉上の刀がかわいそうだ。」


結局なんとか三日だけ泊まって、私はすぐに、江戸に戻った。


わざわざおもてまで出迎えてくれた近藤さんは、あの女の子のいるお店にいたのを急遽切り上げてきたんだろう、赤ら顔のご機嫌で、それでも少し困ったように顎鬚を、なぞっていた。
「総悟がなあ、電話かけてきたんだよ。俺にも見栄張らせてくだせえ、っつって。さみしいのはあいつも一緒だろうがよ、それでも送りだすって決めた、あいつの心意気を汲んでやってくれないか」


私はわかったような顔で頷いた。
涙なんて、流してはいけない。
だって卑怯だもの。


弟がさみしがり屋なのは、よく知っている。手を引くのを恥ずかしがるようになってからも、なにかとぺたぺた、くっついてきたような子なのよ。
だから知っている。誰よりも、弟自身よりももっと、私が。
だからほんとうは、無理をしてでも、そばについていてあげるべきだったのよ。


私だけ免れた病という運命が、弟の身体を蝕んでいく。
はじまった瞬間から決まっていた結末が近い未来にやってくる。忘れたふりをしていても、強引に、きっと、あっけなく。


私は息を殺して、それを待っている。
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