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ブーツと隊服のスカートの、ちょうど境目ひざがしら。
青あざはとても鮮やかに。
「転んだんですか」
「けんか」
「副長と?」
わかってんならわざわざ聞くな、と言いたげに、沖田さんはクランベリーのソーダを啜る。
呼吸のたび、試験薬みたいに毒々しい赤で染められたストローが、白い唇にもてあそばれる。
「馴染みの問屋がおまけにくれたんです」って押し付けたリップグロスの丸い缶は、まだ沖田さんのポケットの常連にはなれないみたい。
「だいたいあの人は心が狭いんだ」
「なにしたんです厠に閉じ込めて目張りしたとか」
「お前性格悪いな山崎。・・・んなたいそうなことしてねーよ。枕元に脱皮しかけの蝉を置いただけ」
「へええ・・・」
「朝から生命の神秘ってーもんを拝ませてやろうとしたのにさァ、全然ありがたみってもんをわかってねえよ。なあ?」
「え?あ、嫌がらせじゃなくて思いやりなんですか?」
「んなわけねーだろ嫌がらせだ」
ずず、と最後の一滴まで啜られて、ガラスのコップは氷だけ残った。
俺マジ蝉好きなんで次回はよろしくお願いします、と先走らなくてよかった。変態昆虫博士呼ばわりされていたかもしれない。
「まあ、だからって暴力に訴えるのはよくないですよね。うん。いくない」
「だろ?『俺の部屋勝手に入ってくんなっつったろ』、て枕ひっつかんで投げてきたんだぜ?よけそこねて転んじまった。」
乙女か、っつーの。
と沖田さんの台詞と俺の思考がシンクロした。
じんじんじんじんとタイミング良く、蝉の羽音が鳴り響く。
そろそろ休憩時間も終わる。表に止めている公用車の蒸された車内を想像すると、それだけで嫌になるけれど、そうも言っていられない。
そういや蝉は、と尋ねるまでもなく、沖田さんが答えた。
「そいつは無事、羽をかわかして屯所の庭に逃げたよ」
「なんだ結局」
「あ?」
(結局、孵化すんのを仲良く見守ってたんですか。)
朝も早よから肩を並べて。
伝票をつかみとり、沖田さんは颯爽と立ち上がって歩きだす。
見せびらかすみたいな青あざはちっとも痛そうじゃない。