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日曜日

用事を済ませるためあちこちふらふらしておりました。
電車を降りた瞬間に、「貴方、服にタグついたまんま」と指摘されただなんてささいなことです。ああんアップリケですう!(嘘!)



折り畳みで小話です。


辛気臭いはずの病室がにわかに華やいだ。

うれしいサプライズは、久しぶりにこっちに戻ってきたというミツバが顔を見せてくれたことだ。
そしてうれしくないサプライズとして、なぜここにいるか理解に苦しむ野郎一匹。今日は黒い皮のジャケットに黒い開襟シャツそして金メッキ三連ネックレスできめている、銀髪のチンピラさん。見舞いにきてくれたんだアリガトウなんて建前なんぞ放り投げて、視界からこいつの存在だけ切り取りたい。という内心。

つーかなぜにお前がいらっしゃいますか暇なんですか、と問い詰める前に「そーちゃんも十四郎さんとも仲良しだっておっしゃる方と、受付で一緒になったのよ」と紅一点がのほほんと微笑むから、俺はなにも言えなくなった。

「これお見舞いなの。着替えと、身の回りのものを思いついた分だけ。足りない分は遠慮なんてしないで、言ってくださいね」
「・・・・・・悪いな」
「これお見舞いなの。エロ本。」
「持ち帰れ」
「ヤダなにこの人カンジ悪っ」
「十四郎さんたらだめよせっかくのお友達のご厚意を」

そう言いながら、果物でも取り出すかのような気やすさで、お見舞いセットの中からネット通販限定ハバネロ煎餅を取り出すミツバに、銀髪は「そうよねえ」と猫撫で声で眉を下げる。
医者から通常食は止められているという印籠により、その煎餅は俺ではなく、偶然の同行者の口へ入ることとなるわけだ。あれはちょっとした兵器。チンピラよ貴様に今だけ、小指の先ほどの同情を送ってやろう。

「でもよかったわ。三日も目が覚めなかったけれど軽傷です、だなんてそーちゃんから連絡もらったときは信じられなかったけど、ほんとうに顔色いいみたいね。たしか骨折だったかしら?」
「まあ、肋骨にひびを少々だな」
「え、マジそれだけ?」
「ああ」
「ちょおちょおちょおすごくない?車で決死のダイブをしたのにそれで済んだの?なにキミ超人?」
「ほんとね。・・・・・・とっても運がよかったのね奇跡みたいだわ」
「ですよね美人のオネーサンもそう思いますよね」

きゃあきゃあと沸く様子は、まるで女子高生が二人いるようだった。
途中でミツバが我に返って、ごめんなさい病室で、としゅんとした。盛り上がるのも無理はない、なんせ俺の愛車は海の藻屑らしいのに、運転していた俺はみためほとんど外傷なしという有様だし。
四肢は軽い打撲、脳波にも異常なし。内臓も無傷。

「・・・・・・腹にジャンプ入れてたおかげかな」

ぼそっと口の中で呟いたひとりごとは、聞き返されたけれど二度言わなかった。
俺だけ知っていればいいかなとも思ったからだ。

それより。

「あいつは?」
「え?」
「だから・・・・・・あいつ。」
「どいつですか」
「・・・・・・ああもう。総悟だよ総悟。今日は来ねえのか」
「ああ、そーちゃん?見ないね最近」
「てめえな。見ないって、つ」

付き合ってんじゃねえのかと言いかけて止まった。
姉貴の前で言われたくないかもしれない、というのと果たしてこいつと総悟がどういう関係に落ち着いたのか(例の情夫の件を暴露したのかどうか)すらわからないって気付いたから。

「っ・・・・・・」
「痛むの十四郎さん?」

ナースコールをしようとするのをやんわり断ると、「そろそろ休んだほうがいいわね」とミツバが気を利かせた。
思わずほっとして、はじめて緊張していたことに気付く。やはり旧知の仲とは言え、普段見ない顔があるのは落ち着かないものらしい。

「悪いが総悟に、近いうちに来るように言付けといてもらえるか。つかいっぱ、させるから」

弾かれたように、ミツバと銀髪が顔を見合わせた。
性根の腐ったチンピラ野郎と、ご近所で評判の大和撫子が、まるで同じタイミングでにいっと微笑む。

その反応がいまいちわからない俺に、野郎は「そう言ってもらえてほっとしたわ」とますます醜悪な笑みを浮かべた。

「あの子・・・そーちゃんね。自分のかわりにお見舞いいってほしいって連絡をくれたの。一人暮らしだし、いろいろ不便してるだろうからって」
「あいつが?」
「俺もね。弱気になってるだろうし、景気づけしてやってくれってあの子直々にお願いされちゃったわけ」

「喧嘩でもしたの、って聞いたんだけど」と心配そうにするミツバに、俺は首を横に振った。
そういえば絶交しようとしていた、と思い出した。
俺の悩めるハートをよそに、ミツバはにこにこと続ける。

「だけどあの子のことだもの。すぐ我慢できなくなって、自分から会いにくるんじゃないかしら」
「どうだかな」
「きっとそうよ。だってそーちゃんは昔っから、十四郎さんがいないとだめだもの」

「だめなんだ?」と茶化す銀髪のことはもう放置した。

病室には、ミツバの持参した煎餅の匂いが満ちている。

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