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火曜日

空知先生お誕生日だそうでおめでとうございます!!忘れてないですよ!(うそです他の方のブログ読んで思い出しましたーーーん)


というごあいさつのあとで大変申し訳ないのですが、折り畳みで小話です。


二台停めればいっぱいの狭い砂利の敷地から車を回す。
見送りをしてくれるらしい近藤医師が、おもてに出てくるのが見えた。

すこし遅れて現れた総悟が、近藤医師に深々と頭を下げている。「いやいやとんでもないまた元気な時に遊びにおいで」張りのある声が届く。総悟の声はさすがにぼそぼそとしか聞こえない。ちゃんとした受け答えができてればいいけれど。

今の今まで気にとめていなかったが、総悟は見慣れないあずき色のジャージを身につけていた。
ありあわせの私服を貸してくれたのかもしれない。なんせ海ポチャだ。全身濡れ鼠だったろう、見るからに面倒見のよさそうなあの医師が、気をきかせてくれたに違いない。
返却がてらまた菓子折りでも持って改めてお礼のご挨拶に来ないとな・・・・・・、いやいやいや。

「ノーと言える俺」
「突然なに言ってんですか」

のほほんと総悟が助手席の窓から覗き込んでいた。
俺は毅然とした態度で答える。

「ひとりごとだ」
「さみしがり屋なんですね。どーでもいいですがなんかバンパーへっこんでませんか」
「道中いろいろあったんだよ」
「いろいろって」
「割愛」

総悟は「ふうん」と言って、それ以上追及しなかった。
そのかわり、ドアに手をかけたまま、なにか考えているような表情をしている。

ここで一から十まで説明する気力は残っていなかった。
すこぶる元気そうに見えるとは言え、さっきまでベッドに横たわっていた奴に「お前はまた失敗したんですよ」「騙されたあげくに捨てられるんですよ」と鼻先に指突っつけて高らかに宣言できるわけがない。
殴ってこのバカと叱り飛ばすのとはわけが違う。
(言っていいことと悪いことの分別を、)
ふいにあのろくでなしの声が浮かんだ。
あんな嘘で塗り固められた偽りの恋人(仮)に教えられることがあっただなんて、大変遺憾である。が、それはそれだ。

総悟がしゅんとうなだれていたファミレスを思い出す。
拒絶。葛藤。愛の逃避行。500円。
気のせいか、あの時のキッツイ香水の匂いまで戻ってきたような錯覚が。

錯覚ではなかった。

「やっだ~ぐーうーぜーんー。」

ビー。とクラクションが鳴った。
衝撃で突っ伏した俺の額がしたたかにそれを鳴らしたからだ。

「なにがどうしてのうのうと姿現しやがったてんめえええ」

めかしこんだ、という表現が適当かどうか。
数時間前に見かけた紫のシャツと白いスーツを脱ぎ捨てて、まぶしいピンクと紫のグラデーションに染め抜いた、パフスリーブのワンピースといういでたちだった。化粧はツヤ感重視。ペンキで塗ったような口紅がてらてらしているのにぞっとする。

「ハ~イそーちゃん。そして保護者のおニイさんも」
「パー子さん、どうしてここ」
「あン、奇跡という名の偶然よう」

バチコーンとウインクをする妖怪パッションピンクに、ふらふらと総悟が吸い寄せられる。
毒気にあてられた俺は、いっそ二人まとめてなんて危険思想を一瞬浮かべて、育てる前にかき消した。
 

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