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木曜日

雲の親分はスポンジみたいなその体に、水の子分どもを抱えて面倒みているのだけれど、そいつらもどんどん大きくなって「もうこれ以上はめんどう見切れねえや~」となったときに、親分子分はたもとを分かって、雨が降る・・・
という科学たとえ話を思い出していました。
降ってんじゃねーぞ!と空に向かって悪態をついていた私に足りないのはきっとレインコートだけではない。
しかし「雨が僕のことを見降ろす」と歌ったCHARAの国語力は崇めるしかないな。


折り畳みで小話です。続き書いてくれてもいいのよ・・・?(チラッ)と常にキラーパスをしたがっているのである。


「お前は何度俺を身元引受人にしたら気が済むんだ」
「ですよね」

さすがに駄目元だったんですけど、とベッドの上で総悟は言った。
昔っから健康なくせ、無駄にはかなげな面差のせいで、消毒薬の匂いだとか白い病室という小道具がよく似合うのだこいつは。

学区外で保護されたり、公園のベンチで熟睡してて保護されたり、繁華街で補導されたり。
そして今回は海辺の診療所。
「迎えにきてください」からはじまる儀式だ。俺はその電話により召喚され、地域迷子案内所だったり交番だったりまで赴いて「ご迷惑おかけしてすみませんよく言って聞かせますから」と頭を下げ、総悟の頭をひっぱたき、家まで連れ帰る。これでワンセット。
思えば包丁男が乗り込んできたときは、応用問題みたいなものだった。
基本を押さえておけばなんとかなる。
俺はあの時そう悟った。
しかしこうも頻繁に(なんせ結構な短いスパンで面倒をしょいこむのだこいつは)走馬灯を瞼の裏にめぐらせている俺の寿命はいかほどか。過去を再生しすぎて擦り切れそうだ。おかげで思い出は美しくない。

スリッパの音に振り向くと、日焼けした白衣の男性が白い歯を輝かせつつ、近づいてくるところだった。
俺は慌てて簡易椅子から立ち上がる。総悟はさすがに、ベッドに寝かせたままだ。

「気分はどうかな?おや、こちらおうちの方ですか」
「このたびは申し訳ありません。このバカが大変なご迷惑を」
「いえいえ非があるのはこちらですよ。突然声をかけたもんで、総悟くん・・・でしたかね。彼を驚かせてしまったみたいでして。手を伸ばす間もなく、海にボチャン。こりゃまずいぞ、と思っているうちにぶくぶく沈んでいっちゃいますからね、まったくもってびっくりしましたよ」

牧歌的な雰囲気でおそろしいことを言う白衣の男性は、ここの診療所の医者だという。
「申し遅れまして。ここで医者をしとります、近藤です」と彼が名乗ると、総悟が「命の恩人なんです」と付け足した。
そうか?

「あんときは一瞬三途の河が見えました」
「海から河って、また水気の多い話だね」
「近藤先生はうまいこと言うなァ」

そうか?
しかし二人は示し合わせたようにどっ、と沸いた。
「乾く暇もありませんな、ってね」おもしろいかそれ?

ひとしきり笑って、医者は出て行った。今日はもう、帰ってもよいとのことだった。
「次は元気な時に来てね」笑顔がまぶしかった。
俺は椅子を引く。

「姉貴には連絡したのか」
「・・・・・・。」
「だと思った」
「だって俺、磯臭いし、溺れかけたとかかっこわるくて恥ずかしいし」
「お前な」
「それに、海おっこって病院とかきいたらねえちゃん、絶対心配する。ほんとに大したことないのに」
「あとで知るほうが嫌だろ、こういうのは。・・・今度からは、直接姉貴に言え」
「土方さん怒ってる?今日のこと、ねえちゃんに言う?」
「俺はもう、なんにも言わねえよ」

「土方さん?」総悟が首をかしげるのを、視界の隅に追いやる。

事務所で俺が電話を取った時、パーマとその連れの高杉は傍で会話を聞いていた。
聞こえてしまったのだ、なんせあの事務所はほかに物音ひとつしなかったから。
「がっかりだよ」肩をすくめるパーマは失望していた。
俺は奥歯を噛みしめて、電話を切った。

こいつがまともな恋愛をできないのは俺のせいかもしれない。
俺が言うことを聞いてあげて、叱って、甘やかして。
そういうのはただの隣人の俺がすることじゃなかったんだ。

俺は今日も、こいつを家まで連れ帰る。
だけど今日で最後にすると決めた。

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