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火曜日

作業なんてやってやれっかー
うわー


折り畳みで小話です。


重度のシスコンだけれども、理想の女性像ってのはまた別らしい。
こいつの姉貴は大和撫子を絵に書いたような麗人で。
一方。
目が悪いのか鼻が利かないのか、ともかく総悟はむかしっから、それはないだろと呆れるような相手にばかり夢中になっていた。
顔の造作がどうとかいう話じゃない。揃いも揃って事情持ちなのだ。
だから今回も、と思った俺はたぶん正しい。
煮詰まってエスプレッソ的な濃度となったアメリカンも、気が進まないというのに二杯目となり、そろそろ埒が明かないと、ようやく切りだした本題。

「で?今度の相手はどんなんだ」

カルピスとコーラとメロンソーダとあとなんだっけ。
勢いのままに割った液体をストローですすりながら、総悟が一瞬目をうるませる。頬は桃色。なにを反芻しているのか、いっさいがっさい吐かせてしまいたいようなだけど両手で耳を塞ぎつつ逃げ出したいような、複雑なきぶん。

「・・・美人ですぜー」
「独身で、借金なくて、金ネックレスと開襟シャツのこわーいオッサンがバックについてるとかそういうこともない?」
「・・・・・・」
「おっまえなあ・・・・・・」
「あ、でも独身。未婚。もちろんフリーです。ほら俺、フジツな恋ってのは卒業したんで」
「本当だろうな」

包丁持った中年男に隣家と間違われて突入されあわや大惨事、なんてことは人生において一回こっきりで勘弁してほしい。つーか本来一回だってなくていい。
さすがに俺の引き攣った表情の原因に思い当たったのか、総悟がおずおずと「よかったら」と特製ジュースを勧めてくる。いらん。

「今度こそ、土方さんに迷惑はかけませんから」
「頼むわ」
「だから、お願いしますね」
「わかってる。約束は約束だ」

あまりにあまりな事態が続いたため、聖母のようだ海のようだと誉れが高いさすがの姉貴も参ってしまい、『療養のため』、今は田舎に引っ込んでいる。
これにはおねえちゃん大好きな総悟も堪えたようだ。しかしいくら泣いて詫びようが、すぐさまケロッと傾いた体調が戻るわけではない。(どうも元々じょうぶな性質ではなかったらしい)
直接の迷惑を被ったわけではないが、ご近所さんの手前もある。
そこでだ。
事態の収束を図ろうと被害者である俺は、当事者の総悟に対し、
『俺が認めた相手以外、男女交際一切禁止』
端的にいってそんな内容の誓約書をとったのだった。
なお、包丁男は元鞘の奥さんと幸せに暮らしている。

姉貴に怖い目みせたっていう負い目からか、この頃はおとなしいもんだったのに、先週のことだ。
『運命の相手に出会ったかも。』
といういつもの台詞ではじまるビョーキが、春の陽気に誘われて再発してしまった。
だめだだめだいやだいやだとお菓子売り場の母子のような問答を繰り返すことに疲れた俺は、結局こうして、深夜のファミレスでソファをあたためている。と、いうわけだ。
と、いいますか。

「いつまで待たせるんだよその運命の相手は」
「もう来るはず・・・あっ」

ガランゴローンいらっしゃいませー、とドアの周辺がにわかに騒がしくなった。
約束定時から30分の時を経て、ようやくお出ましか。すでにNOという準備ができている俺は寧ろ落ち着いていた。
さあもう、ふたまわり上の熟女が来ようが異国語のみのお取り扱いが来ようが俺はどっしり構えていてやろうじゃないか。

総悟が無邪気に手を振って、居場所を知らせている。
その視線の先を追った俺は。

「ごっめーん遅刻しちゃった~」

コーヒーを噴いた。

「あのね、出がけにネイルとチークの色が違うって気づいてぇ、急いでメイクやり直したんだけど変じゃなーい?って、え?なにオトコつき?」
「やだなァ、ただの幼馴染ですよう誤解しないでくだせえ」
「ふうん?でもおニイさん二枚目ー。ちょっとドキドキしちゃうか・も」
「・・・・・・。」

俺はコーヒーでおしゃれ染めな襟元も放置して、なにか言おうとするもなにを言うのが適当か、それもわからず沈黙と遊ぶ。遊んでないで家に帰って風呂入って寝たい。
総悟といえば、にににっとはにかんで、「あ、紹介しねーと」なんて言う。

「パー子さんです」
「パー子でぇす」

愛想よくひらつかせる指先は、ネイルでごてごて飾られていたとはいえ、紛れもない男のそれだった。それだった、とか言いたくないもう。
地毛とは思えない銀色のウィッグを高い位置でふたつに結わえ、スパンコールが螺旋を描くショッキングピンクのキャミソールドレス、そしてこれみよがしに組んだ太股を覆うタイツはあざやかな緑。
たしかにネイルとチークはお揃いのオレンジ色だった。
だから?と声を大にして言いたいが、そんなことよりもまず。

「えっと・・・・・・」
「はぁい?」
「総悟とはどういう」
「ええーヤッダーえっちぃ!どういうプレイをするのとかいきなり聞いちゃうわけえ?ムッツリとみせかけてせっかちねえ」
「土方さん、俺はともかく初対面だってのにその質問はいけねーや。マナー違反ですぜ」
「やんもうそーちゃんてば、オトコなんだからあ!パー子濡れちゃう」

どういう関係か、と念押しするまでもなく、カレシカノジョのご関係で間違いないようでした。
俺はこれまで我慢していた煙草をそっと取り出した。
誰か助けろ。と一瞬胸中ですがった相手は誰なんだ。俺はさびしく、沈黙のかわりに現れた混乱と手をつなぐ。

「あーん。走ってきたらのど乾いちった」
「ビールでも頼みます?」
「んー気分じゃないなー。あっコレそーちゃんの?飲んでい?」
「・・・・・・。」

ごつい手からドドメ色のコップを奪って一気飲みした。
なにがそーちゃんだ。

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